順天堂大学 大学院 医学研究科 泌尿器科学 主任教授
さまざまな生体情報のなかでも、更年期障害と強い関連のあるパラメータとして私たちが注目したのが、心拍リズムのゆらぎを表す「心拍変動(Heart Rate Variability、HRV)」です。HRVは自律神経機能を評価するための代表的な指標で、健康で良好な状態ではゆらぎが大きく、疾病や強いストレス下では心拍リズムが一定に近づきHRVが低下することが知られています。
先行研究でも男性ホルモン低下とHRV低下の関連性は示唆されていたものの、臨床データの蓄積は極めて少ないのが現状でした。そこで本研究では、前立腺がんや男性更年期障害の患者さんのHRVを測定し、ホルモンの変化と更年期症状、そしてHRVの関連を調べました。
まず、前立腺がんの患者さんのHRV変化に着目しました。手術でがんを切除できる方は良いのですが、転移がある場合には男性ホルモンをゼロにする「ホルモン療法」を行います。これは「テストステロンが急激に低下する極端なケース」と言えます。測定の結果、ホルモン療法を行うとHRVの数値が下がることが確認できました。
現在はこれを踏まえて、テストステロンが緩やかに低下している一般の男性更年期患者さんを対象に、ウェアラブルセンサを用いて、治療に伴う生体情報の変化を観察・検証しているところです。
前立腺癌のホルモン治療によるHRVの変化。テストステロンの低下とHRVの低下の相関が示されたはい。更年期症状を有する男女14名を対象に、8週間の生活習慣介入試験を実施しました。具体的には、食事指導・運動プログラム・ヨガ・認知トレーニングを組み合わせた包括的アプローチに加えて、自律神経のバランスを整える睡眠改善プログラムを提供しました。介入試験後は更年期症状が改善し、それに伴ってHRVも高まる傾向が見られました。生活習慣の改善によって更年期症状を緩和できることが実証されたわけです。
研究を進めるなかで、特に「睡眠の向上」がHRVを高める重要な要因であることがわかりました。更年期障害の患者さんの訴えで最も多いのが「眠りが浅い」「寝た気がしない」という睡眠にまつわる悩みです。単に長時間寝れば良いわけではなく、熟睡できることが大切です。アプリでは睡眠の状態なども確認できるため、現在はそこにも着目して詳しく解析を進めています。
こうして蓄積した約100名分の更年期症状データをもとに構築した更年期障害の発症予測モデルが、WellAgeの基盤となっています。
生体データと「ホルモン情報」をかけ合わせたさらに高精度な解析も検討している。副腎皮質ホルモン「コルチゾール」はストレスで増加するため、爪を切って郵送してもらえば、そこから過去約3ヶ月間の蓄積状態を把握できる。リアルタイムデータと組み合わせ、より精密な評価機能として実装を目指すWellAgeは複数のウェアラブルデバイスに対応しており、ご自分のウェアラブルデバイスにWellAgeを導入すれば、HRVに加えて心拍数、歩数、活動量、睡眠時間などの生体データをアプリが一元管理してくれます。さらに、メンタルヘルスや更年期に関する質問票をアプリ上で組み合わせて、更年期症状を総合的にスコア化してユーザーにフィードバックします。
日々の体調や更年期に伴う体の変化を、アプリ上で直感的に把握できるのが大きな特徴です。複数のOSに対応しているほか英語版も展開しており、現時点ですでに約1000人の方にご活用いただいています。
男性は不調を「疲れ」と片付けてしまいがちですが、アプリで体の状態を数値化やグラフ化することで、自身の不調に気づき、早期発見につなげられると期待しています。
更年期障害予防アプリ「WellAge」のユーザーインターフェイス