
順天堂大学 大学院 医学研究科 泌尿器科学 主任教授
助成期間:令和5年度~ キーワード: 男性更年期障害 メンズヘルス 前立腺がん 研究室ホームページ
1991年に宮崎大学医学部卒業、同年、医師国家資格取得。同大学医学部附属病院での研修医を経て、1995年より国立がん研究センター研究所分子腫瘍学部のリサーチレジデントを務める。1997年に宮崎大学より医学博士の学位を取得し、同大学医学部泌尿器科助手に就任。1999年からはUCLAハワードヒューズ研究所フェローとして研究に従事した。
帰国後は杏林大学医学部泌尿器科助手、帝京大学医学部泌尿器科講師、准教授を経て、2017年より獨協医科大学埼玉医療センター泌尿器科准教授に着任。2020年に同センター低侵襲治療センター教授に就任した。2023年より順天堂大学大学院医学研究科デジタルセラピューティクス講座の特任教授を務め、2026年より現職。
私はもともと臨床医として、前立腺がんの治療やそれに伴うロボット支援手術に長く携わってきました。そこで、男性ホルモンであるテストステロンを低下させる「ホルモン療法」を行うと、がんは改善するものの、副作用として患者さんが気力を失ってしまう様子を目の当たりにしてきました。
臨床現場では30年ほど前から「男性更年期障害」という概念が浸透し始めており、私はこの病態とテストステロンとの関係に関心を持つようになりました。がんセンターやアメリカでも一貫して前立腺がんやホルモンの研究を続けてきましたが、臨床現場での気づきこそが、現在の研究につながる最初のきっかけです。
更年期障害とは、性ホルモンの分泌低下に伴って生じる心身の不調を指します。
男性の更年期障害は、加齢に加えてストレスや社会環境の変化によってテストステロンの分泌が減少することで発症し、異常な発汗、ほてり、疲労感などの身体症状や、イライラ、不安感といった精神症状が現れます。
女性の更年期障害との大きな違いは、発症や回復のタイミングが予測しにくいことです。女性の場合、閉経を迎えると女性ホルモンであるエストロゲンが急激に減少し、最終的には分泌されなくなります。そのため、更年期を乗り越えれば回復していく「一過性の症状」とも言えます。
それに対して、男性は加齢とともに徐々にテストステロンが低下するため、いつ更年期障害が発症してもおかしくない状態が続きます。発症はストレスとの関連が強く、中年期に仕事や経済面での強いストレスがかかると、急激に活力を失い、社会的な活動性が低下してしまうケースが多く見られます。しかし、男性更年期障害は認知度が低く、個人差も大きいため自覚しにくく、予防や治療につながらないというジェンダーマイノリティーの健康課題になっています。
昨今、企業においては出勤していても業務に集中できない「プレゼンティーイズム」が問題となっています。進行すると、会社に行けない「アブセンティーイズム」となり、休職や欠勤に至ります。このような意欲や集中力が低下してしまう背景に、更年期障害が潜んでいるケースは少なくありません。
また、更年期障害に伴って「うつ症状」があらわれる方もおられます。一般的に企業の社員の数%がうつ状態になると言われており、産業医への相談の多くもメンタル不調に関するものです。
「うつ病」と更年期障害による「うつ症状」は異なる病態であり、必要とされる治療法も異なります。両者の判別は難しく、「本人はうつ病だと思っていたが、実は更年期障害が原因だった」というケースは珍しくありません。だからこそ、早期発見と重症化を防ぐ予防的アプローチが求められているのです。
当研究グループは日本初の「メンズヘルス外来」を開設し、男性更年期障害の診断と治療に取り組んできました。治療としては、テストステロンを注射して回復させる「テストステロン補充療法」が有効です。しかし、男性更年期障害は生活習慣やストレスが大きな要因であるため、医学的治療だけでなく「テストステロンを減少させない生活環境を整えること」が不可欠です。そこで、日常生活の中で継続的に状態を把握し、本人にフィードバックを行う仕組みが必要だと考えました。
それを可能にするのが、ウェアラブルデバイスによる生体情報のセンシングと、データの可視化・フィードバックを一体化させた開発中のアプリ「WellAge」です。人間情報工学の専門家である順天堂大学大学院医学研究科 創造長寿医学講座の駒澤真人客員准教授とともに本アプリ開発を企画しました。WellAgeは、生体情報から病状の進行を予測し、効率的な治療や予防につなげることで「更年期障害の発症を防ぐ」ことを最終的な目標としています。アプリ内で採取した生体情報、問診や日記の記録から更年期の傾向を解析するだけでなく、生活環境の改善を促すプログラムやアドバイスも組み込んでおり、日常的に活用することで更年期の予防、改善につながる仕組みを目指しています。
更年期障害の原因の一つに、メタボリックシンドロームがある。肥満はテストステロンの低下を引き起こすため、そこに運動不足やストレスが重なれば、更年期障害に陥りやすくなる。ただし、肥満が解消されるとテストステロンの値も回復することから、生活習慣の改善によるリスク低減は十分に期待できる