香川県を対象とした災害時リアルタイム対応支援システム構築の試み
高橋 成実 先生

防災科学技術研究所 連携研究フェロー

助成期間:令和5年度~
キーワード:津波 地震学 リアルタイム観測 研究室ホームページ

1995年千葉大学大学院修了、博士(理学)取得。同年、東京大学海洋研究所(現・東京大学大気海洋研究所)COE研究員となる。1996年より海洋科学技術センター(現・海洋研究開発機構)にて地殻構造とテクトニクスの研究や地震・津波観測監視システム開発と利活用に従事する。2016年以降は、防災科学技術研究所に移籍(海洋研究開発機構兼任)し、現在は連携研究フェロー/上席研究員を務め、海域観測網の利活用の研究を行っている。

まず、従来の災害対応に対して、どのような課題を感じてこの研究をスタートされたのか教えてください。

一般のハザードマップは、想定しうる最大規模の自然災害を基準に作られています。そのため、住民の避難には十分ですが、消防や警察など住民を支える側にとって最適な情報にはなっていません。

例えば、強い地震が起こり、津波警報が出されたとしましょう。同時に二次災害として火災が発生した場合、消防署はどう対応すべきでしょうか。津波が来るとしても時間の猶予があるかもしれないし、来ないかもしれません。そんな時に住民ととともに避難すれば、街は全焼してしまうかもしれない。このように、支援側には「逃げるか対応するか」のシビアな判断が求められるのです。

住民を支える方々が、使命感だけで命を危険に晒すことがあってはいけません。そこで、各機関が適切な判断をくだし、支援側が安全に業務を遂行するための、明確な根拠となる資料を作る必要があると考えました。

また、今後発生が懸念される南海トラフ地震は、震源が広く、被害は広域におよびます。その際、被災していない自治体が支援に回る「広域支援」という考え方がありますが、地震活動が広域に活性化するという過去の経験に照らし合わせると、実際の運用は容易ではありません。起こるか分からない最大級の地震に危機感を持ち続けることも大事ですが、様々な即時情報のもとに、多様な災害へ柔軟に対応できる体制を整え、できるだけ自分たちの地域は自分たちで守り復旧させることが重要と考えています。これが本システム開発の目的の一つです。

ご研究の対象として香川県を選ばれたのはなぜですか。

香川県は、太平洋側に比べて被害が小さく済む可能性がある一方で、自身も被災し得る立場にあり、同時に高知県や徳島県を支援する役割も担うためです。四国の中で相対的に災害リスクが低い香川県には、四国地方整備局や気象台などの国の防災機関に加え、四国電力などの主要インフラ企業の本社が設置されています。そのため発災時には、県内の防災対策にとどまらず、四国全域に対する災害対策・支援の検討が求められます。このように、香川県は四国における防災・支援の要となりうるのです。

それでは、先生が開発しておられる災害時リアルタイム対応支援システムについてご紹介いただけますか。

このシステムは「地震被害即時予測」「津波即時予測」「地殻活動監視」の3つから成り立っています。

まずは、1つ目の「地震被害即時予測」からご説明しましょう。即時予測の前に、事前に地震や津波被害を推定できるシステムがあります。これは震源域やマグニチュードといった大まかな条件を入れると、対応するモデルが提示され、生じうる災害をシミュレーションする機能で、防災科学技術研究所が開発した「地震防災基盤シミュレーター」です。

例えば最大規模とされるM9.2の地震で検索すると、100件以上ものモデルが提示されます。震源となる断層が同じでも、断層のどの部分が強く揺れるかによって被害の様相が大きく異なるため、ある県で数万棟が全壊するケースもあれば、ほぼ全壊が出ないケースもあります。だからこそ、複数の可能性を踏まえた備えをしておかなければ、いざという時に機能的に動けないのです。

被害の予測結果は地図上に色分けで表示されます。地盤の弱さや木造家屋の密集度から算出される建物の倒壊や、それに伴う二次災害のリスクまで、一目で詳細に把握できます。さらに集落ごとの想定死者数も算出されるため、遺体安置所の確保といった具体的な対応まで検討できます。こうして様々な事態をシミュレーションしておくことが、行政のBCP(業務継続計画)の実効性を高めることにつながると期待しています。

地震防災基盤シミュレーターのトップページ。想定されるさまざまなシナリオからモデルを選び、被害予想を確認できる

地震被害予測は、発災時にも活用できるのでしょうか。

もちろんです。地震のリアルタイム解析に対応しており、発生から約5分後には自動で最新情報を公開します。震度や最大振動速度などの物理的なデータに加えて、予測される被害が項目ごとにマップ上に表示されるため、一目で状況を把握できます。

災害対応において極めて重要とされるのが「情報収集」ですが、限られた要員で即座に全域を調査するのは困難です。また、甚大な被害を受けた地域では連絡すら取れなくなるため、「救助要請がないから無事」というわけではありません。このシステムで「現在、どの集落が大きなダメージを受けているのか」を把握できれば、効率的な情報収集が可能になります。その情報を元に行政やインフラを支える企業が素早く意思決定を行えば、災害対応は大きく迅速化されるでしょう。