IoT向け無線通信ネットワーク技術を用いた四国全域の斜面災害監視システムの開発
安原 英明 先生

愛媛大学 大学院 理工学研究科 生産環境工学専攻 教授

無線通信ネットワーク技術には、LPWA以外にも方式があるかと思いますが、LPWAにはどのような特徴がありますか?

IoT向け無線通信ネットワーク技術には、LPWA以外に、ワイヤレススピーカーなどに利用されているBluetoothや、家庭用の無線ルーターなどで使われているWi-Fi、また携帯電話の通信規格である3G・4G・LTE 、その他ZigBeeなどがあります。しかしいずれも、消費電力、コスト、通信距離などに短所を抱えています。

これに対し、LPWAは、1デバイス当たり単3乾電池2本で10年以上稼働するという高い省エネ性能と、10kmを超える伝送能力を有しています。その代わりに、通信速度が遅く、大容量のデータは送信できませんが、斜面災害監視に用いるデータはごく僅かで、また低速でもあまり問題になりません。

無線通信ネットワーク技術の各規格の特徴:携帯電話などに使われている3G・4G ・LTEや、Wi-Fiは消費電力が大きく、BluetoothやZigBeeは通信距離が短いのに対し、LPWAは、低消費電力・低コストで長距離通信を実現できる

LPWAには、NB-IoTやLTE-M、Sigfo、LoRaなどの規格がありますが、LoRaは免許なしで使用することが可能ですし、技術面で先行しています。また、データの送信回数に制限がなく、送信の頻度を増やせます。

センサの開発状況について、教えて下さい。

事前準備段階から研究1年目にかけて、傾斜センサと水位センサ、温度センサを内蔵した第1弾プロトタイプ版LoRaセンサデバイスを開発し、愛媛県喜多郡内子町立山地区の管理斜面10カ所に設置し、斜面崩壊時の変動状況のモニタリングを実施しました。研究1年目には、四国域内の道路斜面のうち、伊予市中山町国道の地滑り地域(以下、中山地区)に、LoRa規格の傾斜センサ10基と水位センサ1基、徳島県三好市西祖谷山村有瀬地区の地すべり地域に伸縮センサ1基を、それぞれ新しく開発し、設置しました。なお、有瀬地区においては、地すべり地をモニタリングするために、LoRa通信性能を検証する電波伝搬実験を行い、基地局を設置しています。

研究2年目には、傾斜および水圧を計測できるセンサにLoRaデバイスを実装し、センサモジュールの性能評価を行いました。これが最新のセンサで、さらなる省電力化と小型化に成功しました。施工性も大幅に改善されたので、導入費用を大きく抑えることが可能です。

また、研究2~3年目には、超音波式水位センサや、SigfoxやLTE-Mを搭載したセンサなども開発・設置しています。後者に関しては、最終的にモニタリングの対象となる地域の特徴に応じて、規格を選んで使用できるようにしたいと考えています。

1年目に中山地区に設置した傾斜センサ(左)と有瀬地区に設置した伸縮センサ(右)。
開発したセンサデバイスとしては、2代目に当たる

センサの施工性が大幅に改善されたため、学生もセンサの設置を手伝えるようになった。写真はサイトビジットで、領域代表者の金田義行先生 と訪れた伊予市中山地区