IoT向け無線通信ネットワーク技術を用いた四国全域の斜面災害監視システムの開発
安原 英明 先生

愛媛大学 大学院 理工学研究科 生産環境工学専攻 教授

研究体制について伺いたいと思います。センサの開発や設置などは、すべて先生の研究室だけで行われるのでしょうか?

LPWAデバイスを実装したセンサモジュールの開発や実装試験の実施に関しては企業から、変状管理斜面の抽出や現場計測、実証試験の候補地選定などに関しては、企業や国土交通省四国地方整備局から支援を受けています。経済面でも、民間企業から助成を受けており、2021年度には国土交通省の研究助成に採択されました。

開始段階に比べて、より多くの組織・団体の協力を得ており、研究のさらなる発展が期待されます。産官学の力を合わせて、「四国をミマモル斜面変状・水位監視システム」を構築し、社会の安全・安心に貢献するのが最終目標です。

研究グループを拡大し、「四国をミマモル斜面変状・水位監視システム」を構築するのが最終目標。なお、研究グループには、愛媛県も参加する予定である

無線通信ネットワーク技術を用いた斜面災害監視システムは、いくつかの企業で開発されているとのことですが……

本研究に追随する形で、いくつかの企業がLPWAを使用したシステムの開発に乗り出し、商品化しています。しかし、各企業がバラバラに開発している状態なので、個々の斜面に異なる企業が開発したシステムが導入された場合、自治体で全体を管理するのが困難になると考えられます。これでは、国道の安全や市民の生活を守るという本来の目的が達成できません。

そこで、私は、異なるシステムを一括して扱うことのできるプラットフォームの開発を目指しています。企業はプラットフォームの開発にまで手が回りませんし、国や自治体にしても、異なるシステムを一括するような仕組みを作ることはできません。ですので、プラットフォームの開発は、大学にしかできないことと自負しています。

また、収集したデータを見える化するインターフェイスの開発に取り組みました。これが実現すれば、自治体の中で異なる企業のシステムが使われていたとしても、斜面変状計測・データ収集・管理を一括して行うことが可能になります。

なお、プラットフォームとインターフェイスに関しては、今後立ち上げを予定している「四国CX研究会(仮称)」の主要テーマとして扱い、その後3年以内に実現したいと考えています。

四国CX研究会(仮称)について、詳しく教えて下さい。

研究の3年目に発足した、LPWA研究会を母体とする産官学共同の研究組織です。

現在、土木業界は、若手人材の不在による慢性的な労働力不足と高齢化に悩んでいます。特に四国の土木業界では急速な勢いで高齢化が進んでおり、インフラ維持管理対象の老朽化や自然災害の増加という状況の中で、安全・安心なサービスの提供が危ぶまれる状態です。

そこで、本研究会では、IoTやAI、クラウド、DX(デジタルトランスフォーメーション)、また先ほどご説明したLPWAやプラットフォーム、インターフェイスなどについて研究し、こうした新しい技術を積極的に、土木分野に対して導入を推進することで、同分野の生産性の向上と、安全・安心な社会の実現に寄与することを目指します。

また、この研究会で若手技術者・研究者に官公庁や他の企業と接触する機会を与えることで、将来の可能性を拡大したいと考えています。彼(女)らが土木業界により強い関心や使命感を持って業務にあたってくれれば、同業界の発展にもつながります。

最後に、特定領域研究助成に応募した経緯と感想を教えて下さい。

大学からの案内がきっかけで、この助成制度について知りました。自分の研究テーマは、特定領域研究分野の防災分野にまさに合致するので、応募を決めました。

面接の際には選考員の先生方から、研究意義などについてかなり厳しいことも言われましたが、自分の研究は安全・安心な社会づくりに貢献する研究だと自負していますし、プラットフォームやインターフェイスを構築し、計測やデータ収集・管理を一括して行えるようにするところに意義と新規性があると考えていたので、それについてアピールしました。それでも、厳しいコメントをいただいたので、受かったと聞いた時は本当に驚きましたし、嬉しかったです。

先ほど申し上げたように、国土交通省や民間企業からも助成金を受けているのですが、セコム科学技術振興財団の助成金は高額ですし、内容について細かく注文をつけられることがあまりないので、自由に研究を進めることが可能です。また、私の場合、研究を進める中で、当初提出していた計画に少々変更が生じたのですが、それに関しても柔軟に受け入れてもらえました。

助成金のおかげで、SigfoxデバイスやLTE-Mデバイスを実装したセンサモジュールの開発、四国CX研究会(仮称)の準備に取り組むことができました。研究や教育の可能性を広げてくれた助成に、深く感謝しております。

研究室には約20名の学生が所属し、安原先生の指導のもと、岩盤やバイオグラウト、LPWAに関わる研究に取り組んでいる

地球温暖化などの影響により、台風・豪雨災害が激しくなる中、先生のご研究によって、地域の安全に貢献するシステムが実現されることを、心から願っております。お忙しい中、長時間のインタビューにご対応いただき、ありがとうございました。