IoT向け無線通信ネットワーク技術を用いた四国全域の斜面災害監視システムの開発
安原 英明 先生

愛媛大学 大学院 理工学研究科 生産環境工学専攻 教授

助成期間:平成30年度〜 キーワード:岩盤工学 総合防災 研究室ホームページ

2005年8月ペンシルバニア州立大学大学院エネルギー・地球環境工学専攻Ph.D.コース修了、Ph.D.(エネルギー・地球環境工学)。同年11月より愛媛大学工学部環境建設工学科にて助手を務める。2007年10月に愛媛大学大学院理工学研究科生産環境工学専攻にて准教授、2016年4月教授に教授となり、現在に至る。

まず、先生の研究テーマについて教えて下さい。

専門は岩盤工学です。特にエネルギー問題に貢献することを目指し、放射性廃棄物地層処分事業における岩盤の健全性評価や、地熱、天然ガス、石油などの地下資源回収などについて研究してきました。

また、岩盤工学で扱ってきた鉱物の溶解や沈殿の現象を応用し、地盤改良に用いるバイオグラウトの研究にも取り組んでいます。この研究をきっかけに、防災・減災について強く意識するようになりました。

そんな折に、同僚の都築伸二先生(愛媛大学 大学院 理工学研究科 電子情報工学専攻 教授)とIBMの社員から、IoT向け無線通信ネットワーク技術(Low Power Wide Area:以下、LPWA)の規格の一つであるLoRaを紹介されました。その後、この無線通信を活用すれば斜面災害監視システムの開発が可能だということに気づき、研究を開始した次第です。

それでは、先生が開発されている斜面災害監視システムの仕組みについて詳しく教えて下さい。

本システムは、大きく分けて、センサと基地局から構成されています。

集中豪雨によって斜面崩壊が発生する場合には、その予兆として、斜面の変形や移動が生じます。そこで、危険が予知される現場にセンサを設置し、斜面の変状を計測します。計測されたデータは、LPWAによって接続されたLoRA基地局を経由してインターネット上にあるサーバにアップロードされ、パソコン端末からアクセスすることが可能です。

また、昨今の台風や豪雨災害では河川氾濫による被害が甚大となっています。国土交通省も河川水位把握のために、水位センサを設置していますが、その数は決して十分とは言えません。そこで、河川・湖沼水位を測定する水位センサの開発と、測定した水位データを収集・管理する水位監視システムの基盤技術の開発にも、併せて取り組んでいます。

最終的には、四国全域に無線通信ネットワークを構築し、斜面変状と水位変化をリアルタイムで検知するシステムの開発を目指しています。

斜面災害監視システムの全体イメージ:センサで斜面の変形や移動を計測し、そのデータを基地局に送信。送信されたデータは、インターネット上にアップロードされる。これによって、各自治体で斜面データを一括管理できるようになる

既存の斜面災害監視システムの問題点について、伺いたいと思います。

斜面災害監視システムは、崩壊の危険性のある斜面に観測機器を設置し、斜面の変状を管理するものが一般的で、すでにいくつかの企業で開発されています。  

しかし、既存のシステムは設置・運用コストが高いため、全国で50万カ所以上とされる土砂災害危険個所に対して、ごく一部しか導入されていません。特に、観測データを送信するのに必要な電力をカットするのが困難なのです。また、消費電力量が多いため、原則として電源があるところにしか設置できません。しかし、近年の豪雨の激しさの高まり傾向なども考慮すると、新たな斜面監視システムの構築は急務となっています。

こうした課題を克服するために、本研究では、無線通信技術としてLPWAを用いました。LPWAは低消費電力で長時間稼働するため、データ送信にかかるコストを大幅に削減できます。

また、無線通信技術を用いず、民間業者が定期的に現地に赴き、観測機器からデータを取り出して安全性を確認していた地域もありますが、このシステムを導入すれば、その必要もなくなります。

安く、かつ容易に安全を担保できるような仕組みができれば、これまで観測システムが設置されていなかった斜面も管理・監視することが可能になるでしょう。

これまでは、防災カルテで斜面の点検を行い、重大な危険が予想される場合のみに、遠隔通信技術を用いた斜面災害監視システムが設置された。しかし、カルテで問題ないとされていたにもかかわらず、土砂崩れが発生した場合もあった