防災分野
最新科学技術を用いた自然災害の被害軽減と強靭化

金田 義行 先生

領域代表者 
香川大学 四国危機管理教育・研究・地域連携推進機構
副機構長
地域強靭化研究センター センター長
特任教授 学長補佐

キーワード : 地震 防災・減災
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東京大学大学院理学系研究科地球物理学専攻修士課程修了。理学博士。1979年石油公団石油開発技術センター入所。1997年海洋科学技術センター(現海洋研究開発機構:JAMSTEC)入所。2014年名古屋大学減災連携研究センター特任教授。2016年香川大学四国危機管理教育・研究・地域連携推進機構副機構長、地域強靱化研究センター長、特任教授を務め、現在に至る。

日常化する自然災害

阪神淡路大震災以降、大規模災害が頻発している

近年、日本は毎年のように大規模災害に見舞われるようになってきました。2019年に関東圏を直撃した台風19号、2018年の西日本豪雨といった風水害に加え、2016年の熊本地震、2011年の東日本大震災など、甚大な被害が発生した地震も、まだ記憶に新しいのではないでしょうか。

さらに「災害の日常化」という表現が使われ始めたように、例えば南海トラフ地震のような100年から200年に一度と言われる国難規模の大災害だけでなく、今後も時をおかず甚大な風水害などが頻発する可能性が高まっています。

被災後に未来を語るのは難しいが、被災前なら個人の継続計画や町づくりの議論ができる

減災と強靭化への取り組み

これまでの防災対策といえば、避難訓練など「災害発生後」を想定したものが中心でした。

避難訓練は大切ですが、それだけでは大規模災害に対しては圧倒的に無力です。災害前にいかに被害を軽減するかという「減災」の視点に立った研究、および、その後の早急な復興に繋がる対策を検討しなければなりません。つまり、1)災害前の事前準備、2)災害時の適切な行動、3)災害後の対応、これらすべてを統合した減災と強靭化を科学的に考えるべきなのです。

通常の復興策では、BCP(事業継続計画)やDCP(地域継続計画)が重要とされています。ですが、大規模災害が発生した時、とくに重要で基本となるのは「個人・家族の継続計画」です。一般的に言えば、被災された方々は目前にある生活再建課題などで手一杯になってしまい、「今後の人生をいかに生きるか」「地域や事業をどのように立て直すか」など、将来計画を考える余裕は持てません。BCPやDCPは、個人や家族の復興あってこそのものであり、これらを抜きにしては成り立たないのです。

市民の“意識改革”

「インフラに頼り、災害が起こってから避難するのでは手遅れになる」と語る金田先生

近年、風水害が発生した際には必ず、氾濫した川や浸水している街の様子がテレビで大々的に報道されていますし、ネット検索をすれば、より詳細な気象情報を入手することができます。それらのリアルタイム情報と災害規模のイメージがうまく合致すれば、誰でも、災害に遭う前に最適な行動をとれるはずです。

しかし実際には、多くの人々が、最後の最後まで避難を躊躇することが少なくありません。何故でしょうか。その理由の一つは「今までは大丈夫だったから、これからも大丈夫だろう」という正常性バイアスが働くからです。一方、避難したくても出来ない避難困難者も多くいることも事実です。

例えば、これまで岡山県は災害の少ない地域だとされてきました。ですが、西日本豪雨の際には、テレビやラジオで何度も避難指示が出されたにも関わらず、60名を越える多くのの犠牲者が出ました。これは正常性バイアスの影響や多くの避難困難者出てしまった結果と考えられます。人は誰しも、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう心理学上の特性を持っています。「以前は“たまたま”大丈夫だっただけだ」というように、意識を切り替えてもらわねばなりません。

減災と強靭化を推し進めていく上で重要なこと、それは市民の“意識改革”なのです。

正常性バイアスが働いてしまうもう一つの要因、それは市民の「防災減災意識の希薄化」ではないかと思っています。


 現在では、防災減災技術が進歩し、耐震・免震構造を備えた住宅やビルが多く建設されるようになりました。河川の堤防がコンクリート化し、海岸に護岸ブロックが敷き詰められ、港に高い防波堤が整備されるなど、ハード面での対策が万全になればなるほど、人々が心理面でそれらに頼り切ってしまうようになるのです。
 しかし、戦後の日本の復興過程におけるインフラ建設から、すでに70年近くが経過しました。現在では「老朽化」と「建設当時の想定を越える災害の発生」という問題が浮き彫りになってきています。昨年の台風19号では千曲川や阿武隈川の堤防が決壊し、首都圏でも多摩川が氾濫して大きな浸水被害を受けたように、想定を超える雨量と老朽化したインフラの影響などで、大きな災害が発生してしまいました。
 我々研究者は、市民の防災減災意識を希薄化させてはならないのです。

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