防災分野
最新科学技術を用いた自然災害の被害軽減と強靭化

金田 義行 先生

領域代表者 
香川大学 四国危機管理教育・研究・地域連携推進機構 副機構長
地域強靭化研究センター センター長
特任教授 学長補佐

正常性バイアスというフィルター

イメージ図。「自分から見えている世界」を描いている

考え方を変えるには、視点を変えねばなりません。
 絵をご覧ください。この絵は何を表しているか、皆さんお分かりでしょうか。

答えを先に言います。画家のイヌ君が見ている映像は、自身の前髪を通してのものであり、それに気づかず絵に描いてしまっている、ということです。人は誰しも「自分の考え」というフィルターを通して物事を見ています。前述の“正常性バイアス”のような間違ったフィルターを通してしまうと、取り返しのつかない被災に繋がるかもしれません。

地震を想定した避難訓練で、普段通りの避難経路を歩いて避難所に向かうだけ、となれば「簡単にたどり着ける」と楽観視してしまうかもしれません。ですが、これがイヌ君の前髪であり、誤ったフィルターです。実際に地震が起こればどうでしょうか。避難経路上には液状化のリスクやブロック塀や電柱などの倒壊リスク、さらに夜間なら暗中模索状態での一層の避難困難を余儀なくされるなど、多くの要因があります。

このような事態に対して、家族や地域の人々と相談し、いかに行動すべきかを普段からシミュレーションをしておくことで、初めて誤ったフィルターを外すことができるのです。


実学としての防災減災研究を

地震の予知予測はできなくても、どうすれば被害を軽減できるのかを意識していた

視点を変えなければならないのは、市民だけではありません。我々研究者も同様です。

私は、学生の頃から地震を含めた地盤の研究を行っており、当時は理学的な研究こそ大切なものだと考えていました。しかし、その考えを変えるきっかけとなった大災害が発生します。阪神淡路大震災です。

実態調査へ赴いた現地で見たのは、全壊した家や、崖ギリギリで傾いているお寺、全く同じ角度にズレてしまった墓石……。6000名を越える犠牲者を出した直下型地震災害の恐ろしさを前に「本当に社会に貢献できる“実学”としての研究をすべきだ」と気づいたのです。

その視点で考案したのが、地震・津波観測監視システム「DONET」です。

南海トラフ地震発生帯である紀伊半島沖のおよそ水深1900m以上の海底に設置した、地震計・水圧計を装備した地震・津波観測監視システム「DONET」が、地震・津波の発生をいちはやく検知し、早期避難を促すことができるようになります。