防災分野
最新科学技術を用いた自然災害の被害軽減と強靭化

金田 義行 先生

領域代表者 
香川大学 四国危機管理教育・研究・地域連携推進機構 副機構長
地域強靭化研究センター センター長
特任教授 学長補佐

人という“ブラックボックス”

中央のボックスにいる市民の、災害への考えや行動は様々である。人と防災未来センター月例会 高原耕平研究員 提供資料に加筆。場情報については、梅田規子著『生きる力はどこから来るのか』(冨山房インターナショナル)にて述べられている。

我々研究者は、防災知識やリアルタイム情報の発信といった「知情報の高度化」にのみ注力しているため、どれだけの人が助かり、あるいは助からなかったかという結果しか分かりません。

我々の研究と、災害後の結果の間には、人の考え・行動という“ブラックボックス”があります。このブラックボックスの中には「すみやかに避難する人」「様子見する人」「避難できない人」、「避難しない人」など様々な属性の人がおり、こうした情報を「場情報」とします。

特に高齢者のなかには身体的な衰えを理由に「諦めてしまう人」が多くいますが、普段から「災害後の地域づくりでは、あなたの知恵や経験が必要」というように、その方が災害後の地域づくりに必要だという事を周りの人が説得していけば、考えを改めてくれるはずです。「場情報」を科学的に読み解き、個々の行動をどう改善していくかを、防災減災研究として考えていく必要があるのです。

これまでは、理学・工学・医学といった災害時に直接関係する分野で、防災減災研究が行われてきました。これからはそれ以外にも、農業や水産業といった一次産業復興に関わる農学、人口減少や過疎化を考慮に入れた社会学、情報発信と受け取る側の市民の心理を明らかにする情報学・心理学などを新たに取り入れ、相互に連携した総合科学として防災減災に向き合い、社会の強靭化を目指すべきだと考えています。

行政・企業と、研究者を繋げられる人材の育成

防災減災研究に携わる研究者は、自分たちの研究は何のために行っているのかを認識することが大切ではないか

本領域では、高度なシミュレーションを利用したアクティブ避難訓練の研究をする浅井光輝先生(九州大学准教授)、土砂災害に関わる防災システムの開発や事前のリスク評価をする安原英明先生(愛媛大学教授)と野々村敦子先生(香川大学准教授)、地震後の建造物に対してリアルタイムで安全性を評価する装置の実証実験を行う楠浩一先生(東京大学教授)、事前避難の研究を進める福島洋先生(東北大学准教授)といった、5名の優秀な先生が熱心に研究に取り組んでくれています。

私は領域代表者として、半年に一度程度、現場のサイトビジットや交流会などを実施して随時アドバイスを行っています。また、研究者同士の意見交換を促すことで、そこで得たひらめきを自身の研究に活かしてもらうよう意識しています。

ただ、研究がうまく進んでも、その成果を社会実装する際には、行政や企業が鍵を握る存在となります。彼らは、研究者と市民との間に入る“ディシジョンメーカー”として大きな役割があります。ですから、我々研究者は「研究を発表して終わり」ではなく、実際に社会実装できるまで、辛抱強く彼らに働きかけ、繋がっていくことが大切になるのです。

そのためには、行政・企業と研究者を繋げられる人材の育成が急務です。セコム科学振興財団の本領域研究を通し、そういった点までを考慮した社会貢献を実現できればと願っています。