多階層性モデルによる肥大型心筋症のリスク予測法と新規治療法の開発
吉田 善紀 先生

京都大学 iPS細胞研究所 増殖分化機構研究部門 准教授

研究を進める上で、大変だったことはありますか。

細胞の状態を、比較、統計解析できるような定量的な数字のデータにして表すにはどうすればいいのか、大変苦労しました。また、実験で予想外の結果が出て落ち込んだり、逆に「新しい発見に繋がるのではないか」と、日々一喜一憂を繰り返しながら研究に励んでいます。

遺伝子の解析から様々な仮説を考える段階が、研究の醍醐味であると語る吉田先生

今後はどのような方向性で、研究を進めていきますか。

試験管内の心筋細胞内の変化を見ても、実際の心筋症の病態進展はわかりません。周辺の心筋細胞や、他の細胞との相互作用・物理的ストレスによる変化が加わるため、細胞レベルから生体内レベルまでの多階層的解析が必須です。

多階層モデルにおいては「一細胞レベルでのサルコメア組織化不全の発生」「一細胞レベルでの肥大化反応の進展」「組織レベルでの肥大化、細胞の配列の乱れの発生」など、細胞から組織レベルの各段階に分けた、経時的変化のモデル化を目指します。また、各段階において、病的変化を促進する因子と、抑制する因子を同定し、これらの因子の変化が病態進行に導くモデルを構築します。

iPS細胞を用いた多階層性の心筋症病態再現モデルを用いることで、これまで困難であった患者のリスク評価を可能にし、組織レベルでの心筋症病態の進展メカニズムの解析や、新規治療法の探索・個別化医療の開発に貢献するプラットフォームを構築したいと思っています。

この特定領域研究助成を知ったきっかけを、教えて下さい。

研究所内のアナウンスで知り、特定領域研究助成のテーマにある「生物の多様性、非線形性を反映した研究プラットフォーム」という課題について、私も問題意識を感じていましたので、応募しました。遺伝的多様性を反映した研究プラットフォームの構築は、iPS細胞を使用することが望ましいと考えたのです。領域代表者の桜田一洋先生からは「臨床データと試験管内のデータの統合を目指すべき」「経時的変化を示すように」といったような、本質的かつ教育的な目線を持ったアドバイスをいただけるのがありがたいです。また、特定領域研究助成を通して、川上英良先生や渡邊朋信先生をはじめ、共同研究の機会に恵まれたことに感謝しています。

特定領域研究助成が、共同研究のきっかけに

ありがとうございました。先生のご研究が、これからますます発展されていくことを期待しています。