先端医学分野
多階層医学プラットホーム構築のための基礎技術開発

桜田 一洋 先生

領域代表者 
理化学研究所 医科学イノベーションハブ推進プログラム
副プログラムディレクター

キーワード : データ主導型研究 オープンシステムサイエンス 多階層問題
研究室ページ

大阪大学大学院理学研究科修士課程修了(生理学専攻)。1988年協和発酵工業株式会社東京研究所に研究員として入所。2000年同研究所主任研究員。2004年日本シエーリング株式会社リサーチセンターセンター長。2007年バイエル薬品株式会社執行役員、神戸リサーチセンター長。2008年iZumi Bio,Inc.執行役員、最高科学担当責任者。同年株式会社ソニーコンピューターサイエンス研究所シニアリサーチャー。2016年 理化学研究所 医科学イノベーションハブ推進プログラム 副プログラムディレクターとなり、現在に至る。

Realityに迫る「新しい科学」に挑戦する

生命医科学には、いくつもの課題があります。その一つが「論文の結論が再現しない」ことです。

現在の生命医科学分野では複雑な現象を「シンプルな因果律(原因と結果)」で説明した論文が、高い評価を受けています。しかしそのような因果律は、特定の条件では「Truth」と言えますが、あくまで近似であり現象そのものを言い表しているわけではない──つまり「Realityではない可能性がある」ということを念頭に置き、常に注意しなければならないのです。

研究者は対象を「見ている」つもりが、気がつかないうちに「思考範囲に限定して見ている」ことがあります。何らかの前提を持ち、その前提に当てはまるもののみを「見ている」のです。私は「見ること」と「考えること」が一致するように、純粋に対象を見なければ、Realityに迫ることはできないと考えています。

小学3年生のときに映画『父ちゃんのポーが聞こえる』を見て、治らない病気があることに衝撃を受け、生命科学に興味を持った

Realityとは、生物の場合は「多様性」です。人間は一人ひとり違います。その多様性を一般的な因果律で説明しても、正しい表現になりません。

たとえば「白」という言葉がありますが、雪や雲、冷蔵庫の「白」は、それぞれ違う色です。同じように、病気には「アトピー性皮膚炎」や「糖尿病」といった名前がついていますが、アトピー性皮膚炎の患者の症状は一人ひとり違います。

ところが現在の生命医科学は、生命を機械のように単純化して捉えているため、「アトピー性皮膚炎」を「●●が原因であり、■■の治療が有効である」など、ひとつの因果律で説明しようとします。しかし、生命のrealityは多様性にあることから、発見された因果律が普遍的に成り立つわけではありません。その結果「患者Aは治癒したが、患者Bには効果がなかった」など、「論文の結論が再現しない」という問題が発生するのです。これは、新薬の開発が停滞している原因の一つでもあります。

もう一度「病気とは何か」を、考え直さねばならない時が来たのです。セコム科学技術振興財団のような民間の助成財団であれば、Realityに迫る新しい科学──従来の科学の影響を受けない形で、新しい未来を作るような領域に挑戦できると考えました。

「100年後には、この時代が“生命医科学の転換期”になっているかもしれない」と語る桜田先生