東京電機大学研究推進社会連携センター総合研究所 サイバー・セキュリティ研究所 教授 上野洋一郎先生インタビュー「コンピュータの原理原則に着眼したセキュリティカーネル技術とその応用に関する研究」(第1回)


アプリケーションの追加ができないというのは、安全のためとはいえ、一般のコンピュータにとっては厳しい制約ですね。

 その通りです。しかし一般ユーザが使えるセキュリティでなければ意味がないため、ハードディスクに悪影響を与えるプログラムのみ制限をかけて、それ以外のアプリケーションは許可するといったふうに、コンピュータの自由度をある程度確保した制限のかけ方についても研究を進めています。

この研究が実用化されたとき、どのようなセキュア空間が構築されるのですか。

 まずは、膨大な個人情報が集まるマイナンバーの管理や銀行ATMなど、国のインフラや企業の根幹部分を中心に、セキュア空間を構築します。そして、現在はサービスごとにユーザがIDを作成していますが、そのセキュア空間において高い信頼性を持つID管理方式の認証システムを作り、その認証を用いて安全にインターネットを活用できるような環境づくりを目指しています。
 さらにはそのセキュア空間に接続する端末の安全性も高めていくことで、一般ユーザがマルウェアから攻撃を受ける心配なしにIT技術を活用できるような社会づくりに貢献したいと考えています。

いま、ご研究はどのような段階にあるのですか。

 セキュリティカーネル技術を組み込んだWindows Sever2008と、Linuxサーバはほぼ完成しました。また、セキュア空間の外にあるWindows7の端末にセキュリティカーネル技術を搭載することにも成功しました。
 今後はWindows 10とMacOSに対応したセキュリティカーネル技術の開発・完成、ID管理サーバの開発と実装、ペネトレーションテストの実施など、まだまだやるべきことは山積していますが、安心・安全に利用できるネットワークのプロトタイプ完成を目指して、引き続き研究を進めていきます。

これまでご研究されてきたなかで、セコム科学技術振興財団へのご要望などはありますか。

 要望はありません。感謝したいことがたくさんあります。
 とくに驚いたのが、助成金をとても早くご用意いただいたことです。選考に通って研究助成金をいただけることが決定すると、年末にはお金を振り込む準備に入ってくださり、3月末にはすでに振り込まれていて、4月の頭から助成金を使って研究を始めることができました。
 幅広い分野に対して助成されていることはもちろん、研究者にとって使いやすい助成制度になるよう、さまざまな配慮をしてくださっていることに、感謝しています。

 ありがとうございました。現在のコンピュータセキュリティの現状と課題、今回のご研究の特性がよくわかりました。次回は、より安全なID管理方式を実現するための個人認証技術や、OSやアプリケーションのバージョンアップなどに対する対処などについて、詳しくお話を伺います。