東京医科歯科大学難治疾患研究所 病態細胞生物学分野 教授  清水重臣先生インタビュー(第2回)「オートファジー機構を応用したスマート・エイジング対策法の開発」


実用化が楽しみです。ではつぎに、今回セコム科学技術振興財団の研究テーマに掲げておられる「スマートエイジング」についてお教えください。

  アンチエイジングについては、ご存じの方が多いと思います。しかしアンチエイジングは、老化を「人としての価値が下がること」であると捉え、それに「いかに抵抗するか」という考えを基本としているのです。最近は医療技術の発達により、寝たきりや痴呆といった本来の自分とはいえない状態で、いたずらに生かされる、というケースが増えているのも事実です。不健康な状態でいくら長生きしても意味がありません。
  そこで登場したのが「スマートエイジング」という考え方です。ただ単に長生きさせるだけでなく、自分の年齢を受け入れ「健康寿命」をのばしていこう考えです。

たしかに、病院のベッドで植物状態のまま死を待つよりも、何歳になっても買い物や家事がひとりででき、肉も魚も美味しく食べられ、趣味も楽しむことができれば幸せです。

  誰でも年をとれば、若いときと比較して筋力や持久力は落ちてきます。しかし、たとえ筋力や持久力が落ちてきても、家事をしたり、外出するというぐらいの体力は、意識すれば誰でも保てるはずです。

スマートエイジングの考え方はよくわかりました。これにオートファジーはどう関係してくるのでしょうか。

  じつは、年を重ねるともにオートファジーの機能も弱くなり、不要なタンパク質が多く残った状態となるため細胞が傷つき、そのことが原因となり筋力の低下や痴呆が起こります。そのため、オートファジーを活性して不要なものをうまく取り除くことができれば、健康寿命をのばすことができるのではと考えました。
  また、近年注目されているメタボリックシンドロームなどの肥満状態も、じつは老化とひじょうに近い症状なのです。そのため、オートファジーを活性化できれば、老化だけでなく肥満防止にも効果があります。

老化、肥満防止の場合も、オートファジーを活性化する薬のようなものを投与するでしょうか。

  病気の場合は薬で治療しますが、現在健康な人が健康寿命をのばす場合には、薬よりも運動や食事などの当たり前のことを意識的におこない、日々の生活の質をあげることが大切です。なかでも、現在の研究ではとくに食事に着目し、オートファジーを活性化させる成分を持つ食品がないか探しています。

オートファジーを活性する食品を摂取すれば、その都度細胞内がきれいになり、細胞の老化による症状を防ぐことができますね。その食品は見つかっているのでしょうか。

  ある植物の成分にオートファジーを活性するものがあることがわかっています。まだマウスでの実験段階ではありますが、脱毛箇所の改善や、肝脂肪の除去などといった効果がみられています。ほかにも、赤ワインなどのポリフェノールを含む食品にも同様の効果がみられています。

赤ワインはこれまでも健康にいいと言われてきましたが、オートファジーの観点からも効果的だということが実証できそうなのですね。

  いっぽうで、オートファジーは空腹時に発生するため、栄養をとるばかりではなく、断食のような方法も効果的かもしれません。どちらにせよ極端に食べすぎたり、食べなすぎたりすることは逆効果ですが、さまざまなアプローチからオートファジーを活性化することができます。

私達一人ひとりが自分に合った方法で、無理せず実践できそうですね。さいごに、セコム科学技術振興財団へのメッセージをお願いします。

 セコム科学技術振興財団さんの助成金はひとつのテーマについて研究をおこなうのに理想的な金額なので、ほんとうに感謝しています。もともと肝臓移植について研究していたこともあり、医療への還元が大切だと考えていますので、はやく実用化できるように研究をすすめていきたいと思っています。


先生の研究が実際に医療の場でつかわれるようになる日がたのしみですね。長時間のインタビューにお答えいただき、ありがとうございました。