芝浦工業大学システム工学部環境システム学科 教授 三浦昌生先生インタビュー「地域安心システムの実現に向けて」


具体的には、どのようなサービスなのですか?

医師や看護師、ケアマネージャー、介護施設のスタッフなどが、患者や入居者の状況を家族に声で伝えるサービスです。携帯電話の録音機能を用いて高齢者の健康状況や生活の近況などを入力し、離れて住む家族等がその録音メッセージを聞くことで、情報を共有し、相互の信頼関係づくりに寄与します。また、各関係機関が高齢者の情報を共有するシステムもあります。インターネットを活用して画像や文書、メール、音声メッセージなどのやりとりを行い、一人の高齢者の状況を即時に、正確に伝え合うことができます。これらはすべて実証実験を行いました。
 医師からの「お元気ですか?」等の音声メッセージを高齢者の自宅電話や携帯電話に自動的に送信し、高齢者が自分の健康状態をプッシュボタンの操作で返信する(例えば①→元気です、②→体調不良、③→連絡希望など)見守りシステムは、すでに実用化されています。このパイロットシステムも、全国で使える標準モデルシステムになるはずです。

では、「住宅選定・転居支援システム」とはどのようなものでしょうか?

多摩ニュータウンの諏訪・永山地域では、一人暮らしの高齢者が介護やサポートが必要な状況になっても、経済的な理由などから住居である団地の一室に住み留まり、低層階や介護支援を受けられる住居などの“適した住まい”へ移ることができないという事例が多くみられます。これは多摩ニュータウンに限ったことではなく、全国のニュータウンや大規模な集合住宅団地でも同様の課題を抱えています。
 看取りの場について考えると、2005年に亡くなった人が108万人であるのに対し、2030年には165万人もの人々が亡くなると推定されています。厚生労働省は2030年に医療機関で亡くなる人を現状維持、介護施設で亡くなる人を2倍、自宅で亡くなる人を1・5倍にしたいとしています。医療機関で89万人、自宅で20万人、介護施設で9万人と推定されますが、残りの47万人は、まだどこで亡くなるか未定だということです。

2030年頃に亡くなる人達は、現状では死に場所さえないと。

人にとって、自分の死に場所を考えることは、生きる場所を考えることでもあります。ですから、各種サービス利用者が、どこに“終の住まい”とよばれる最後の住居を探し出し、安心してその住居・地域に暮らすかは、早急に解決すべき問題です。高齢者が地域で安心して生活し、今を充実させるためにも、建築は建築家だけが担当するのではなく、他の専門家や現地のヘルパーなどを交えて作るなどの新たな仕組みづくりが必要なのです。

バラバラな地域サービスだけでは、結局困るのは自分たちだと思いますね?

私たちのグループが、セコム科学技術振興財団から5年間にわたって助成金をもらって研究してきたのは、現在の社会が直面している課題全体に対して事業として取り組むソーシャルビジネスの可能性の追求でした。この「地域あんしんシステムモデル」を支える事業主体を、コミュニティビジネス(ソーシャルビジネス)として作り出すための事業構想を詰めてきたわけです。そのひとつとして、ライフステージに合わせた住宅選定・転居支援システムの開発と実践を計画・推進しています。