富山大学大学院医学薬学研究部(医学)内科学(第二)講座 教授 絹川弘一郎先生インタビュー「入退院を繰り返す心不全患者に対する重症化・再入院予防及びQOL改善支援」(第1回)


心不全が起きる前に医療チームがケアに入ることで、症状の悪化を防ぐということですね。しかし在宅での生活スタイルや環境は、患者一人ひとり異なると思いますが……。

 遠隔モニタリングでのオートアラートシステムを確立するためには、心不全に関する患者固有の病状悪化メカニズムを解析する必要があります。そのために、データを長期にわたり記録、保存しておかねばなりません。まずは生体データおよび環境データの取得から療養指導に至るまでの一連の手順を実現する情報システム基盤(ハードウェア・ソフトウェア・ネットワーク)、療養指導体制、マニュアルを整備する必要があります。

なるほど、情報システム基盤を揃え、それを解析するプログラムがないことには、遠隔モニタリングが難しいと。そういえば、日本では慢性心不全治療ガイドラインのクラス1として「体重測定と臨床症状のモニタリング」が推奨されていますね。

 そうですね。その動きの一つとして、心電図や心拍変動などの植え込み型デバイス(主にペースメーカー)のデータを医師がインターネットを通して閲覧、状況をモニタリングして予知・診断を行う方法がすでに保険制度に導入され、点数化されています。
 本研究では従来の植え込み型デバイスではなく、患者の負担を大幅に軽減する非侵襲型の胸部貼り付け型デバイスを利用します。この非侵襲型デバイスを用いて心電図、心拍変動、不整脈イベント、活動量、ストレス兆候などのデータを収集するのです。

非侵襲型の貼り付け型デバイスは、従来の植え込み型デバイスとどのような違いがあるのですか。

 従来の植え込み型だと専用ウェブサイトからデータ送信日時を入力する必要がありましたが、貼り付け型デバイスはデータの測定が自動で行われるため、患者の手間をかけずに済みます。
 非侵襲型で多項目の生体データを持続的にモニタリングする研究は、これまで誰も着手していませんでした。このデバイスで心不全悪化の予知検知が可能になれば、患者の生活不安は解消され、再入院の予防による経済的負担の軽減が期待できます。患者にとっても、体の中にあるより、張り付いているだけのほうが精神的に楽ではないでしょうか。

では、平成26年度より始まった準備研究の具体的な内容をお聞かせください。

 遠隔モニタリングに必要なセンサーおよび環境(温度・湿度)センサーの選定と、情報システム基盤のプロトタイプを構築するべく準備研究を実施しました。この情報システム基盤が心不全患者に対して安全に適応され、かつ病状悪化のメカニズムを解析するのに必要充分な量のデータを取得し、データセンターへの保存が一定のセキュリティ要件のもと、安全に実施されるかどうかの一連の実験を健常者を対象に行いました。被験者は30〜80代の男女計10名です。
 まずデータ収集試験前に心電図を取得し、被験者に心疾患がないことを確認しました。
 センサーはHealthpatch、体組成計、血圧計の3つを使用し、情報端末は64GBのiPhone5、充電機能付きケース。それから使用マニュアル、使用開始前後のアンケートシート、実験全体の評価シートです。