早稲田大学理工学部社会環境工学科教授 濱田政則先生インタビュー「東京湾臨海コンビナートの危険性と地震防災対策」

3・11の東日本大震災では、津波や放射能以外にも「大きな危険」が潜んでいることが明らかとなってきました。湾岸の埋め立て地帯などで起こる「液状化」です。古くからこの問題に取り組み、警鐘を鳴らし続けてこられた濱田先生に最新の調査と研究内容についてインタビューさせていただきました。

「助成研究者個人ページへ」

1943年生まれ。早稲田大学理工学部土木工学科卒業。東京大学大学院工学研究科修士課程修了。大成建設、東海大学海洋学部海洋土木工学科教授などを経て、現在、早稲田大学理工学部社会環境工学科教授。中国西南交通大学名誉教授。土木学会会長、日本地震工学会会長、地域安全学会会長、日本学術会議会員などを歴任。著書に『液状化の脅威』岩波書店などがある。

まずは先生のご経歴からお伺いしたいのですが。

 いまから20年ほど前の話になります。1983年5月26日に青森・秋田県境沖の約100kmの地点にてM7・7の規模で起きたのが日本海中部地震です。震源地が近海であったために警報発令以前に日本海沿岸に津波が到達し、100人を超える死者がでました。
 15年間勤務していた大手建設会社を退職し、東海大学で土木工学分野の研究に従事することになったのがその年です。何を専門に研究しようかと模索していたとき、ガス会社に勤める友人から「ガス管が被害を受けたので詳しく調査してくれないか」という依頼を受けたのです。

この地震の被害は津波ばかりがクローズアップされていましたね

 津波で犠牲になられた方を軽視しているわけではありませんが、地震の被害は、テレビで報道しやすいところに偏る傾向がありますね。じつはこのときに、もう一つ被災地には大きな問題が起こっていました。それが液状化現象です。液状化現象によりガス管などのライフラインが大きな損害を受けていました。
  そこで、このガス管の調査が契機となって、液状化地盤の流動の研究を始めるようになったのです。

液状化について簡単にお教えいただけますでしょうか。

 図1をご覧ください。地表面の下に液状下層がある土地では地震前には砂の粒子が互いに連結し、この連結によって地盤自体の重さやその上の構造物を支えています。地震が起こると砂の粒子の連結がはずれ、ばらばらになって地下水と混じり合い、水の中に砂が浮いているような状況になるのです。

ひどくなると砂や水が噴き出すことまであるとお聞きしていますが。

 地下水と砂が混ざり合うと、その重さは地下水そのものの重さより増加します。そのため、もともとの地下水の圧力よりも高まり、その圧力の高まった間隙水が地表に土と一緒に噴出することがあります。これが噴砂・噴水と呼ばれる現象なのです。とくに震源に近い、青森や秋田では、ガス管や水道管のようなライフラインのほかにも、家屋の倒壊や水田隆起、堤防の欠損など、じつに大きな被害をもたらしていたのです。

今回の助成研究を進められることになったのはなぜですか。

 直接的な契機になったのは、東日本大震災です。仙台港では津波により漂流してきたタンクローリーが石油施設に衝突したり、海上に流出した重油が津波により河川を逆流して住宅地まで押し寄せました。また気仙沼港では、21基の船舶燃料用の貯蔵タンクが津波によって浮上漂流し、住宅地や海上で火災を引き起こしました(右写真)。