イノベーション教育のための自然言語処理によるチームワークのリアルタイムモニタリング方法の開発
田岡 祐樹 先生

東京科学大学 環境・社会理工学院 融合理工学系 エンジニアリングデザインコース 助教

どのようにモニタリングを進めれば、チームワークの可視化が可能になるのでしょうか。

仮にチームの会話をすべて録音して解析したとしても、それだけでチームワークの全貌が明らかになるわけではありません。メンバーのモチベーションなど、外部から計測できない要素もあるため、チームの状況は多角的に見る必要があります。本研究では、自然言語処理(人間が日常的に使っている自然言語をAIに処理させる技術)による発話の可視化、アンケートによるメンバーの内省の調査、そして活動中に現れるプロトタイプ(試作品)の記録という切り口で、チームの状況を客観的に判断する手法の開発を目指しました。

時々刻々と変化するチームの状況を把握するには、さまざまな角度から継続的にモニタリングする必要がある

それでは、収集した各データの内容と、そこからわかったことを教えてください。

まず、「内省の可視化」の指標として、チーム内の対立を取り上げました。チーム内の対立は、タスク・コンフリクト(タスクに関する意見の対立)、リレーションシップ・コンフリクト(人間関係の対立)、プロセス・コンフリクト(タスクの進め方に関する意見の対立)の3つに集約されると言われています。

一般的に、イノベーションの創出には、タスク・コンフリクトは高く、他の2つは低い方が好ましいとされています。そこで、チームにおけるこれらの対立の状態を問うアンケートを継続的に取り、各チーム内の対立の推移を可視化しました。

各チーム内の対立の強さを7段階で評価してもらい、回答の平均を時系列にプロットしたグラフ。青がタスク・コンフリクト、緑がリレーションシップ・コンフリクト、紫がプロセス・コンフリクトを示す

グラフにすると、まさに可視化されますね。このデータから、チームがイノベーション創出に成功するかどうかの傾向は見えますか。

回答者の主観も反映されるため一般的な結論へと導くのは難しいのですが、チームごとに異なる傾向が現れており、それは最終的な成果にも反映されています。例えば、最終的な評価の高かったチームでは、チーム内のタスク・コンフリクトが中程度を推移していました。その一方、活動が停滞していたチームでは局所的に極めて高いタスク・コンフリクトを示し、成果発表の直前に上昇するチームが複数ありました。

とはいえ、アンケートのみから結果を予想できるわけではありません。なぜなら、チームワークは多角的に見る必要があるためです。発話の解析やプロトタイプの評価を加えて総合的に見れば、チームの状態がより正確に、かつリアルタイムに掴めると考えています。この2年間データを集めたことで傾向が見えてきたので、今後の講義では学生へのフィードバックにも活用したいと考えています。

研究としての精度を上げようとするほど、アンケートの質問数は増えるが、それに伴って回答率は下がるというジレンマがあり、必要十分なアンケートの作成に苦労している

前のページへ次のページへ 先生の所属や肩書きは取材当時のものです。