イノベーション教育のための自然言語処理によるチームワークのリアルタイムモニタリング方法の開発
田岡 祐樹 先生

東京科学大学 環境・社会理工学院 融合理工学系 エンジニアリングデザインコース
助教

助成期間:令和3年度〜 キーワード:共創デザイン 自然言語処理 チームワーク 研究室ホームページ

2014年グローバル理工人育成コース、四大学連合・複合領域コース海外協力コース修了。2019年東京工業大学工学院機械系エンジニアリングデザインコース博士後期課程、東京工業大学グローバルリーダー教育院(博士課程教育リーディングプログラム)修了。同年より現職。

まず、先生のご専門である「共創デザイン」とはどのような学問か、そして、先生がこの分野のご研究を始められたきっかけを教えてください。

共創デザインとは、技術と社会のインターフェースを使いやすく魅力的に創る方法の追求、といえるでしょう。実は私自身は、大学生の頃は共創デザインではなく機械工学を専攻していました。大学3年生のときに、機械工学とエンジニアリングの力で発展途上国の課題を解決するプロジェクトに参加して、東ティモールを訪れる機会があったのです。現地に行って、技術と社会の課題が噛み合っていないことに衝撃を受けました。これは決して、東ティモールに限った問題ではありません。例えば、途上国に救急車や保育器を提供しても、メンテナンスする人がいなくて使えなくなってしまう。調べ始めるとこのような事例は溢れており、技術を提供しても、現地の文脈に合っていなければ活かせないことを痛感しました。その体験から、技術開発そのものではなく、「何を作るべきかを考えること」 に進路を定めました。

共創デザインの道を志した当時、日本の大学には関連する授業がまったく見当たらなかったため、フィンランドのアールト大学に留学。帰国後、東京工業大学(現:東京科学大学)で目的を同じくする研究室で研究を行い、今に至る

技術を実際の社会で使える形にすることが、ご研究のモチベーションなのですね。実現に向けて、どのようなアプローチをされていますか。

社会問題を把握して既存の技術をその解決に生かすことと、社会で必要とされているものや技術を研究開発する、という2つのアプローチがあり、両方に取り組んでいます。

前者については、様々な立場の方とのワークショップを運営して、社会の課題を共有し、未来をよりよくする方法を議論することもあれば、課題を抱える現場で実際に働いている人と対話することもあります。さらに、より建設的な議論や対話を行うために「チームワーク」に着目しました。創造的なチームワークの実現を追求するため、研究室での対話や大学の講義のような、比較的制御しやすい環境での実験を行っています。今回の研究も、その一つです。

一方、後者の研究開発については、もともとの専門である機械工学の知識を活かして、マイクロロボティクス分野の技術開発に携わっています。

技術が社会に実装され、社会の課題解決に必要な技術が開発される循環が理想

今回の研究では、イノベーション教育プログラムを対象に、チームワークの可視化に取り組んでおられますね。

イノベーション教育を支援するため、教員や有識者がチームの状況をリアルタイムに把握できる手法の開発を目指しました。例えば大学の授業であれば、学生チームの状況を可視化することで教員がより良いフィードバックを入れることができますし、企業においては製品開発チームの状況を可視化することで、周囲がより適切にサポートできるようになります。

研究対象にしたのは、当大学院の「エンジニアリングデザインプロジェクト」です。4大学が参加するこのプロジェクトでは、異なる大学の学生たちと社会人受講生がチームを組み、パートナー企業から提示された各テーマに沿ってイノベーション創出に取り組みます。専門の異なる大学生で構成されるチームは多様性が高く、イノベーション創出に理想的な環境です。テーマは「災害と日常が隣り合う未来で,「災害に備えない」製品体験をデザインせよ」「中長距離ドライバーの新たな働き方をデザインせよ」など社会的な問題に根ざすもので、10チームが5か月間、それぞれの課題に取り組みました。

各チームの中では計画→行動→分析→リフレクションというサイクルが回っており、このたび研究開発したリアルタイムモニタリングはその中の「分析」の様子を可視化し、サポートするという位置付けです。

学生チームは、自分たちの「行動」を「分析」した結果と、教員チームからもたらされる「分析」 に対する「フィードバック」 を踏まえて「リフレクション」し、「計画」を改善していく

次のページへ先生の所属や肩書きは取材当時のものです。