中央大学 大学院 戦略経営研究科 教授
一例をあげますと、大学生を対象に「音楽で地域の場作り」 というテーマで、ビジネスプランを立ててもらいました。ただし、学生はビジネスに関する専門知識を持ちません。そこで各学生に「マーケティング」「ロジスティクス」「場の運営」という専門性の割り振りを行い、事前に専門家の講義を受けたり、文献による情報収集等の学習をしてもらった上で、ワークショップ当日にアイディアをたくさん出してもらうことにしました。
また、グループは専門性が異なるメンバーが集まるように構成し、さらに「視点取得介入グループ」と「視点取得介入なしのグループ(対照群)」に分けました。
一通りアイディアを出し合った後、視点取得介入グループのみ、自分に与えられた専門分野の立場からアイディアに対する意見を述べて、意見交換を行うセッションを設けました。そして、ワークショップの最後に各グループから発表を行ってもらいました。
その発表を分析したところ、視点取得介入グループは対照群よりも「多元的視点取得」が高く、「創造的成果」も高いという結果が得られました。
そうです。視点取得介入セッションは20分程度に過ぎませんでしたが、話していた内容は、明らかに対照群と異なっていました。異なる視点を持つ人の意見を聞くことが、新たな視点取得につながったのです。つまり、ワークショップを行うときに「この人の立場に立ってみましょう」と声がけするだけでも、多元的視点取得は可能になるのです。
企業の新規事業や新しい技術開発プロジェクトについて、質問紙調査を行いました。対象は「ビジネスの企画」、「ハードウェアの開発」
、「ソフトウェアの開発」
です。
チームメンバーの多様性が、チーム外の接触多様性を高め、それが多元的視点取得をもたらし、チームの創造的な成果につながる。この「チームの多様性→接触相手の多様性→多元的視点取得→創造的成果」というメカニズムは、どの企画においても共通して見られることがわかりました。
もう1つ、企業において経営陣や上級管理職など戦略を実質的に策定しているチームを質問紙調査で特定し、プロジェクトレベルと同様に、多様性や多元的視点取得等の質問を行いました。戦略策定における創造性は、戦略的に新規事業を開発できたか、新規分野に積極的に進出したか、海外に進出したか、DXが実現したか等々の質問で測りました。
すると、やはりチームの多様性が外部ネットワークの多様性を高め、多元的視点取得を高めて、戦略創造性を高めるというメカニズムが明らかになりました。
現場に近いチームでもトップマネジメントチームでも、「人が集まって創造的成果を出す」ことに変わりなく、多元的視点取得を介した創造性向上のメカニズムは共通しているということです。
私の研究では、「新奇性+適切性」と定義しています。企業が新製品や新サービスを生み出すときは、今までにない新しさである「新奇性」だけでなく、社内の各部門の担当者、上層部、サプライヤー、社外の専門家、そしてユーザーや顧客等にとっての「適切性」が必要になります。消費者に受け入れられなかったり、採算が合わなかったりしたら、それは「創造的な案だった」とは言えません。新しい製品やサービスが売れ続けるということは、各種ステークホルダーにとって十分な「適切性」を満たしている必要があります。