ビジネス企画チームにおける多元的視点取得の研究
竹田 陽子 先生

中央大学 大学院 戦略経営研究科 教授

このメカニズムを活用できれば、創造的な成果を生み出せる確率が高まりそうです。

創造性というと、天性の創造性を備えた個人が創造的な成果を出す、というイメージがあるかもしれません。もちろん、そのような要素もあるとは思いますが、企業の創造性は、大部分がそうではないと考えています。新しい領域を切り拓く時は、個々が持つ小さな創造性が相互作用して大きな力になっていきます。誰もが創造的になれる状態、創造的な成果を生み出せる仕組みを企業が作っていくことが大事なのだと思います。

よく「日本人は創造性がない」と言われますが……

「はたらく人の創造性コンソーシアム」 が2023年に創造性に関する調査を行い、国際比較をしました。それによると、他国と比べて日本企業は、最も創造性を重視していません。日本の社員も、創造的であることは評価の対象にならないと感じています。

一方で、アドビ社が2012年に6カ国を対象に行った調査によると、「世界で最も創造的だと思われる国や都市はどこですか」というアンケートでは、「日本」「東京」が1位です。世界的には創造的な国だと思われているにもかかわらず、日本人は自分たちが創造的であるとも、創造的な仕事が評価されるとも思っていないのです。

世界と日本でそれほど認識に違いがあるとは、衝撃的です。

企業を対象にした調査でもわかったことですが、職場の風土は創造性に大きく関わっています。アイディアを出すことが歓迎され、評価が得られるビジネス企画では、社員がアイディアの創出に多くの時間を割く確率が高くなります。つまり、組織が新しいことに挑戦するような風土であれば、創造的成果を生み出すメカニズムも働きやすくなるということです。日本の組織風土、トップ層の考え方が変われば、この結果も変わってくるかもしれません。

社員が創造的な成果にチャレンジしていくには、まずは組織が変わる必要がある

先生はどのようなきっかけで、ビジネスや創造性のご研究を始められたのですか?

大学生の頃は心理学を学んでいたのですが、卒業後は民間企業に就職しました。その頃、インターネットはまだ一般的ではなかったものの、パソコンが一人1台になりつつあり、情報技術(IT)による革新への挑戦が盛んに行われていた時期でした。私はまだ新入社員だったのですが、周囲を説得して社内のIT化を積極的に進めようとしました。その過程で「ITは技術の問題ではなく、組織の問題である」と実感しました。

例えば、当時は書類の多くを手書きで作成していました。時間がかかっていたため、ITを活用した効率化を勧めると、「私の仕事を奪わないでくれ」と言われてしまいました。

どれほど優れた技術があっても、活用できるかどうかは、組織の体質がダイレクトに影響してしまう。この課題を解決したいと思ってMBAに入り、その後、研究者の道を歩むことにしました。

このご研究で最もご苦労された点は、どこでしょうか?

最初はこの多元的視点取得のメカニズムについて、全くわかっていませんでした。当初は企業にインタビューなどをしていたのですが、多くの方は「創造的なことがなされた瞬間」 について、覚えていません。「こうやって成功した」という成功物語はいくつもありますが、成功した瞬間の言語化は難しいのです。

そこで、学生や社会人の方々に協力してもらい、ビジネスプランニングなどのワークショップを実施して、創造的なことが行われる過程を観察することにしました。このワークショップの観察を10年ほどコツコツと積み重ねていく中で、ようやく多元的視点取得というコンセプトができあがったのです。ここまで、本当に試行錯誤の連続でした。

最後に、この特定領域研究助成に応募したきっかけと、ご感想をお願いします。

領域代表者の堀井秀之先生や、同じ採択研究者である田岡祐樹先生とは以前から交流があったため、この助成制度のことも自然に耳に入り、応募しました。

助成をいただいた3年間は、普段はほとんど話す機会のない専門分野の先生方と、定期的にワークショップを行って学ばせていただいたり、シンポジウムの開催に関わらせていただいたりと、とても刺激的で、かけがえのない時間をたくさんいただきました。心から感謝しています。

どのような研究であっても、創造性は重要です。他分野の研究者の発想や視点は財産になります。特に学際的な研究をされている方は、貴重な出会いの場になると思いますので、ぜひ挑戦してみてください。

新しい世界を創り出すときは、「0から1」を生み出すのではなく、
1を多元的な視点から見て別の1に生まれ変わらせる「1から1」を提案したいという竹田先生

多元的視点取得による創造性のメカニズムについて教えていただき、ありがとうございました。このメカニズムを使えば、少人数でも大きな創造性を生み出せるということに感動いたしました。長時間のインタビューにご対応いただき、ありがとうございました。

前のページへ 先生の所属や肩書きは2024年4月当時のものです。