中央大学 大学院 戦略経営研究科
教授
1999年慶応義塾大学大学院経営管理研究科において博士(経営学)取得。1998年に国際大学グローバル・コミュニケーション・センター専任講師(2000年から助教授)、2001年に横浜国立大学大学院環境情報研究院助教授、2006年に同大学大学院同研究院教授となる。2017年に東京都立大学大学院経営学研究科教授、2023年より中央大学大学院戦略経営研究科教授となり、現在に至る。
一般的に「多様性が大事」、「多様性があると創造的になる」などと言われがちですが、果たして「多様性がある=創造的になる」と言えるのか。多くの研究者が解明に取り組んでいますが、ビジネス企画において「組織の多様性の有無が創造的な成果を生み出しているのか」というメカニズムの解明は、まだ十分に明らかにされていません。
組織の多様性は、プラス面もあればマイナス面もあります。マイナス面とは、たとえば「多様な人々の集団は、同じ価値観を持つ人々の集団と比べると、話が通じにくく効率が悪い」
です。そういった意味でも、プラス面とマイナス面の両方を持つ多様性が、成果に対して大きな影響を与えているか否かを明確に示すことは難しいのです。
そこで私が注目したのが、他の人の立場に立ってものを考える「多元的視点取得」です。
認知科学や心理学の領域で、視点取得(perspective-taking)という概念があります。これは、他人の視点から世界をイメージしたり、他者の立場で自分自身をイメージしたりする認知機能であると言われています。他者とコミュニケーションや協働をするときに不可欠な心の働きです。
人間は幼い頃から、世界を理解するために「他者の視点に立って考える」という行動をとります。生後すぐに、人の顔を選択的に注視したり、生後9ヶ月から12ヶ月になると、他者が見ているモノに注意を向けたり、他者の行動を模倣したりします。この行動は、視点取得の始まりであると言われています。身近な人間の感覚や思考を想像するための視点を、生まれながらにして取得する力が備わっているのです。その視点が多様であることに「多元的」という言葉を付けて「多元的視点取得」と名付けています。
企業でビジネスを企画・実施するためには、各部署、取引先、お客様など、多様なステークホルダーと関わることになります。自分の考えだけで進もうとすれば必ず行き詰まりますが、それぞれの視点に立ち、良好なコミュニケーションを維持できれば、物事はスムーズに進んでいきます。その状態になったとき「多元的視点取得が醸成された」といえます。
下図をご覧ください。最初に、ビジネスチームとしてメンバーの多様性があります。さらに、チームが接触する外部の人間や組織の数が多ければ、そのぶん関係者の多様性も高まっていきます。
チームメンバーが多様であることが直接「多元的視点取得」につながることもありますし、接触相手の多様性を通じて間接的に「多元的視点取得」がもたらされることも考えられます。本研究では、この関係性がどのようになっているのかを2つの方法で検討しました。1つはワークショップにおける定性的な研究、もう1つは企業勤務者の方を対象にした質問紙調査です。