早稲田大学創造理工学部経営システム工学科/理工学術院創造理工学研究科経営デザイン専攻 教授
初対面の受講者同士でチームを作り、新しい事業アイデアを創出して、発表してもらいました。そのアイデアに、専門家が点数をつけて評価をします。
会話ログの分析は、各発話に意味を示すタグをつけて、時間経過による変化を含めて確認していきました。たとえば「Aさんが意見(Opinion)を出し、BさんとCさんがそれに同意(AGree)した後、Eさんが質問(Question)をしたら、Dさんが返答(Answer)をした」。このような流れがあったことを確認し、ネットワーク科学分野でよく用いられているテンポラル・ネットワークを構築することで、会話のパターンを集めていきました。
いくつかの違いを見出すことはできました。そして、アンケート結果とあわせてネットワーク分析を行い、チーム内の会話がパフォーマンス(創出したアイデアの質など)に与える影響を逆算的に求めていきました。
しかし「本当にチームワークが事業アイデアの評価に影響を与えているのか?」という質問に、明確に答えることはできませんでした。チームワークやそこから生まれるアイデアは、さまざまなファクターの影響が複雑に絡み合って創発したものであり、高評価のアイデアを出したチームの会話パターンをモデル化し、同じようなコミュニケーションが実現したとしても、必ず良いアイデアが出るとは限らないのです。
そのため、アイデアの評価値以外でチームワークの質を測る方法を模索しました。そうして思いついたのが、チームが生み出したアイデアそのものをネットワークとして可視化し、そのネットワークの構造および創出過程を評価する手法です。
たとえば、あるチームに「○○地域が持っているリソースをいかして新しい事業を作る」という課題を出したとき「住民が交流できる食堂」「一人暮らしの高齢者を対象にする」などのアイデアが出ました。このアイデアの構造を分解し、それぞれの要素(ノード)に対して誰がどのような発言をして具体化や発展に進んだのか、どのような流れで新しいノードが生み出されたのかを可視化するやり方です。
設定すべきノードやエッジ(ノードを繋ぐ線)の種類を検討し、実際に複数のアイデアをネットワーク化させてみたところ、アイデアを創出する過程のチームワークが表現可能であることを確認しました。