リーダーシップとフォロワーシップの創発に関する研究
鬼頭 朋見 先生

早稲田大学創造理工学部経営システム工学科/理工学術院創造理工学研究科経営デザイン専攻
教授

助成期間:令和3年度〜 キーワード:複雑系 ネットワーク科学 創発システム 研究室ホームページ

2007年東京大学大学院工学系研究科博士課程精密機械工学科修了。2008年より東京大学人工物研究センター特任助教、オックスフォード大学サイードビジネススクール研究員(その後、上級研究員)として勤め、2012年に東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻助教、2015年に筑波大学システム情報系助教となり、2018年に早稲田大学理工学術院准教授に就任。2024年に教授となり、現在に至る。

先生は学生のころ精密機械工学科に所属されていましたが、現在のご専門は異なる分野です。その経緯をお聞かせください。

修士課程では精密機械工学科のロボティクス研究室にいましたが、実社会でロボットを活用するためには、ロボット同士またはロボットと人間のコミュニケーションなど、さまざまな要素を考慮しなければなりません。この課題から複雑系科学という領域を知り、博士課程では複雑系科学の研究室へ移籍しました。複雑系とは、社会や生命のように多くの要素で構成され、各要素の相互作用によって成立しているシステムです。その仕組みを解明したり共通原理を見つけたりすることが、複雑系科学の基本的な概念です。私はその中でも特に、要素間の繋がり方とシステム全体の機能の関係性に着目するネットワーク科学に関心を持ち、それ以来、さまざまな組織やシステムの要素間のネットワークに関する研究をするようになりました。

チームワークの研究は、どのようなキッカケで始めたのですか。

早稲田大学は文科省主導の次世代アントレプレナー育成事業に採択されたコンソーシアムの主幹機関であり、事業終了後も継続して教育プログラムを提供しています。私はその実行委員を務めていたのですが、教育効果の評価方法に課題がありました。受講者の満足度アンケートなどでは捉えられない、さまざまなプログラムの多様な効果をどうすれば測れるか、そこに研究の必要性を見出しました。自分には専門知識がなかったため、同じ実行委員でもある島岡未来子教授と協力し、ニューヨーク州立大学ビンガムトン校の、チームワーク科学やリーダーシップ研究専門の研究所に協力を依頼しました。

彼らから多くのことを学ぶうちに、私も自分なりに貢献できることはないかと考えました。さまざまな文献を調べるうちに、リーダーとフォロワーの関係が1対1でしか研究されていないこと、チーム内でリーダーとフォロワーが生まれる動的プロセスについては、数理的な観点での追求が十分に行われていないことを知りました。この部分ならネットワーク科学で貢献できると思い、今回の研究テーマを設定しました。研究成果をプログラムに反映させて、より確かな教育効果を示そうと考えたのです。

それでは、今回のご研究について詳しく教えてください。

3人以上のチームで、あらかじめ決められたリーダーが存在しない場合に、リーダーやフォロワーがどのように創発(相互作用によって自然に生じる現象)するのか、その解明を目指しました。そのために、私たちが独自に開発した「プログラム受講者への詳細なアンケート」の結果と、「ディスカッションの会話ログ」 の分析をする枠組みを構築し、実際に複数のプログラムにおいて収集したデータで分析を行いました。

私たちが開発したアンケートは、プログラム開始前・中盤・終了後の3回にわたり実施するものです。チームワーク分野で確立されていた基本的な質問をするだけではなく、さまざまな学術知見をもとに質問項目を設計しました。プログラム開始前には、受講者の持つ性格的な特徴を捉える質問をします。これは、プログラム受講により変化しない性質です。それに加え、「リスクを恐れる性質」「ルールに従いたい性質」 といった、プログラム受講により変化し得る性質についての質問もします。これらの質問は、プログラム終了後にも訊きます。プログラムの前後で同じ質問をすることにより、プログラム受講が受講者の性質にもたらした変化を捉えることができます。

また、中盤で実施するアンケートには、「チームで頼りになる人物は誰か」「他のメンバーと意見がよく分かれるか」等、チーム内での各々の役割や関係性がどのように変化していったのかを把握するための質問項目を設けました。

ディスカッションの会話は、コロナ禍でプログラムが完全オンライン化されたため動画データとして入手し、すべての発話を文字に起こして、内容を整理しました。

これらのデータにネットワーク科学の観点からアプローチすることで、3者以上が相互に築いていく多様な関係性とその変化の様子を、時間変化を伴う複雑なネットワークとして抽象化することを目指しました。

申請時は目標が大きく、焦点が定まっていない状態だった。それでも採択していただけたおかげで、着手できた

次のページへ先生の所属や肩書きは取材当時のものです。