リーダーシップとフォロワーシップの創発に関する研究
鬼頭 朋見 先生

早稲田大学創造理工学部経営システム工学科/理工学術院創造理工学研究科経営デザイン専攻 教授

提出されたアイデアの質ではなく、アイデアが生まれるまでのチームワークを評価するのですね。良いチームワークとは、どのような形なのでしょうか。

事業アイデアに対して審査員が付けた評価値を使わない方法を目指しましたが、やはり評価値が高いチームは「良いコミュニケーション」 が行われていたことがわかりました。たとえば、最初にアイデアの要素をひと通り出し、次にそれらの繋がりを見出して関係性を構築したり、新しいアイデアへと発展させていく、などです。パターンは多様ですが、ほとんどは可視化したとき、エッジの数が多い状態になりました。

一方「悪いコミュニケーション」は、発話自体が少なかったり、アイデアが出てもバラバラで繋がらなかったり、アイデアが課題に対する解決策になっていない、などのパターンです。

パフォーマンスが高いチームのディスカッションを可視化した図。発話者を色でわけて、発話のタイミングと繋がりを表現した

このご研究では、教育プログラムの効果に関する成果も多数出たと聞きました。

本研究の目的はリーダーシップとフォロワーシップの創発を明らかにすることでしたが、ニューヨーク州立大学の共同研究者らとともに進めてきた、3回のアンケートの結果を分析し、教育プログラムの効果を測定する枠組みの提案と実データ分析においても、様々な成果が得られました。

プログラム受講前と後で変化し得る性質には、たとえば起業家としての信念、決断力、ストレス耐性などが挙げられます。私たちが開発した枠組みを用いて分析すると、たとえばあるプログラムでは、自己肯定感が低い受講者はエラーに対する耐性(エラーコミュニケーション)が上がったが、自己肯定感が高い受講者は低下してしまった、という結果が得られました。どのような性格的特徴を持った人が、どのプログラムによってどのような影響を受けるのか、それが捉えられるようになったのです。

個人の性質と教育プログラムとの相性や影響をはじめ、本研究から派生した教育効果・評価に関する研究成果は、2024年のAcademy of Management(米国経営学会)でBest Paper Awardを受賞しました。早稲田大学には多くの教育プログラムがあるため、この成果を現場に還元し、確かな教育効果が出せる仕組みを作りたいと思っています。

膨大な量のデータをもとに、幅広くご研究されていたのですね。

大変だったのは、数学のように一つの「正解」 というものがないことでした。データ分析からある程度の傾向やパターンが見えても、別のケースではまったく当てはまらないことが多々ありました。そのため、最初の頃は研究の進め方が定まらず、迷走していました。ここまで進められたのは、共同研究者の島岡教授や、領域代表者の堀井秀之先生、他の助成研究者の皆様からアドバイスをいただいたおかげです。

実は、アイデアをネットワーク化する方法を思いついたのは、助成期間が終わる少し前でした。申請時の研究計画とは全く違うやり方でしたが「そのアプローチも面白いね」と、前向きな言葉をいただけたことが嬉しく、助成期間終了後も研究を続けてきたのです。

最後に、特定領域研究助成を受けたご感想を教えてください。

進捗を報告する研究会が毎月開催されるため、ずっと良い意味でのプレッシャーがありました。分析が進まないときは、一旦作業を止めてしまうことが多かったのですが、「何かが見えるまで続けなければ」 と、かじりつくことができました。

また、最初は他の先生方の報告を聞いてもほとんど理解できなかったのですが、一緒に進めていく中で徐々にわかるようになっていき、チームワーク科学分野のメンバーで企画したシンポジウムにも参加させてもらいました。このような経験は初めてで、貴重な機会をいただき、心から感謝しています。

本研究を開始する前、私の研究対象は企業の戦略やイノベーションなど、人を対象としないものが主でした。チームワークやコミュニケーションの研究は日常的・人間的であり、データも煩雑で、客観視や定量化が困難だと考えて避けてきたのです。

しかし本研究を通して、日常的で人間的な対象にも数理的アプローチを使えることが実体験からわかり、考え方が大きく変わりました。学生からも「このプロジェクトに参加したい」という声が多く、社会的にも関心が高いことを実感しています。

この経験は、これからの研究にも大いに生かしていくつもりです。

チームワーク分野でこれまで着目されていなかった部分が、ネットワーク科学によって解明されていく様は、とてもワクワクしました。リーダーシップ・フォロワーシップの研究がますます深まっていくことを期待しております。長時間のインタビューにご対応いただき、ありがとうございました。

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