知識創造活動における熱中対話の先行条件とその効果:視聴覚データを活用して
彭 思雄 先生

中央大学 商学部 助教

熱中対話の時間が長いほど、良いアイデアを選択できない、ということですか。とても意外です。

アイデア選択が負の相関になった理由は、まだ明らかにできていません。あくまで推測ですが、アイデアを選択する際に、新規性や事業性といった「質」ではなく、「長い時間議論した末に、このアイデアを生み出すことができた」、「このアイデアで意見が盛り上がった」など、費やした労力や、チームがそのアイデアに好意的かどうかといった要素がバイアスとなって、正しい選択ができなくなった可能性があると考えています。

アイデアの質を冷静に見極めて選択するには、批判的な発言も重要です。しかし批判的な発言は、熱中対話とは相容れないものがあるため、異なる側面から発言内容に踏み込んだ分析が求められるでしょう。今後の課題です。

熱中対話を生み出すための介入方法については、いかがでしたか。

スポーツの世界では、指導者が選手に練習方法を指示するのではなく、選手自身が自分のフォームを録画し、それを繰り返し見て問題や改善点を発見することで、より効果的な練習方法を編み出すというやり方が主流になりつつあります。

チームにおいても「自身を振り返る」という方法が有効ではないかと考え、オンライン会議の録画データから、コミュニケーションの振り返りに活用できるレポートを半自動的に作成するシステムを構築しました。

その振り返りレポートには、どのような数値が記されているのですか。

下図のように、誰がどれだけ話し、誰と誰の対話が多いのか(コミュニケーションの均等さ・活発さ)、笑顔の比率、議論の様子などを数値化・見える化しました。全チームの平均値との比較もできます。

また、議論の様子では、課題についての議論、議論の進め方についての話し合い、一人が中心になって進めた議論、均等で活発な議論の時間が、それぞれ全体の何割であったかを示します。

録画ファイルから振り返りレポートを自動生成するプログラムは、プログラマーの協力を得て独自開発した。左上の図は、Eguchiの発言が多かったこと、AdachiとUedaの会話が少なかったことを示す

議論の内容まで、自動で判定できるのですか。

熱中対話が生じても、それがアイデアを創出するための議論なのか、「どんなふうに議論を進めるべきか」を決めるための議論なのかは、区別するべきです。そこで、7000 ほどの会議データを「進め方についての議論」と「それ以外の議論」に手作業で分類し、教師データとしてAIに学習させました。適合率の評価も行い、約8割5分の精度であることを確認しています。

このレポートを活用した「チームコミュニケーションの振り返り手法」の効果を、実験にて検証しました。

どのような実験を行ったのか、詳しく教えてください。

4人1組チーム、合計20チームで実施しました。1回目は「教育」をテーマに、2回目は「フィットネス」をテーマに、アイデアの創出と選択の議論を行ってもらいました。ただし、1回目の議論の後には、自分たちのコミュニケーションを振り返る時間を設けました。このとき、「介入群」と「統制群」に分けて、介入群にはさきほどの振り返りレポートを渡し、統制群には指標のみを記した振り返りシートを渡しました。そうして、1回目と2回目で、熱中対話の時間量がどう変化したのかを調べました。

実験の概要(上)、統制群と介入群の振り返り方法(下)

結果は、統制群は変化なし。介入群には優位な変化が見られました。振り返り前の熱中対話の時間は10%でしたが、振り返り後は30%まで増えたのです。

介入群は熱中対話の時間だけではなく、コミュニケーションの活発さ、チームの凝集性も上昇した。チームワークの特徴を行動ごとに定量化することで課題が明確になり、改善に繋がったのだと考えられる

前のページへ次のページへ 先生の所属や肩書きは2024年4月当時のものです。