知識創造活動における熱中対話の先行条件とその効果:視聴覚データを活用して
彭 思雄 先生

中央大学 商学部
助教

助成期間:令和3年度〜 キーワード:チームワーク 創造性 アントレプレナーシップ

2023年3月、東京大学大学院新領域創成科学研究科人間環境学専攻博士課程修了。2023年4月より中央大学商学部助教に着任し、現在に至る。

まずは、先生がチームワーク分野に興味を持たれたキッカケを教えてください。

「いいアイデアをスムーズに出せる人と、なかなかアイデアを出せない人がいる。人の創造性の違いは、どのように生じるんだろう?」と、昔から疑問に思っていました。それを追究できる研究分野があることを知らないまま東京大学工学部に進学し、医療ITの開発研究に携わっていました。

そのとき指導担当だった助教が、領域代表者の堀井秀之先生の教え子だったことから、堀井先生が運営統括するi.schoolを知りました。イノベーションを生み出す人材育成プログラムが提供されていることに驚き、大学院生のときにi.schoolに参加。その後、創造的な思考プロセスやチームワークに関する研究に取り組み始めたのです。

近年は革新的なアイデアを提案できる「一人の天才」の獲得よりも、部門やプロジェクトごとの「チームの創造性」を育てることが重視されるようになってきました。

そうです。しかしコロナ禍によってリモートワークが定着し、非言語コミュニケーションが制限される中で、以前よりも信頼関係の構築が困難になったといわれています。

そこで私が着目したのは、誰が、いつ、どのようなことを、どれくらい話したかがわかる、オンライン会議の録画データです。個々人が創造的なアイデアを持っていなくとも、他者との会話から生まれることがあります。そのため会議では、メンバー全員が活発に意見を出し合う状態が理想的です。

本研究では、メンバーが均等に議論に参加し、絶え間なく活発に意見が交わされている状態を「熱中対話」と呼んでいます。会議中の熱中対話の時間を測ることで「熱中対話の量とチームの知識創造活動の成果との関係」、そして「どのような介入を行えば熱中対話が生じやすくなるのか」の解明を目指しました。

i.school参加後、発話の特徴や発言内容、表情、生理的反応などのデータ分析から思考プロセスやチームワークに関する研究を行い、経営学最大の学会 Academy of Management で学生論文賞を授与された

知識創造活動の成果とは、何を、どのように評価するのでしょうか。

指標として「アイデア創出(良いアイデアを出せたか)」、「アイデア選択(良いアイデアを選択できたか)」、「凝集性(チームの一体感)」の3つを設定しました。

そして1年目に、オンラインでアイデア創出ワークショップを開催。4人1組でチームをつくり、合計26チームに「アフターコロナのビジネスアイデア」をテーマにアイデア創出に取り組んでもらい、その中から最も良いアイデアを1つ選んでもらいました。また、チームとしての一体感を実感できたかどうかをアンケートで質問しました。

アイデア創出は「新規性と事業性の両方が3点(5点満点)を超えるアイデア数」で評価。アイデア選択は「チームが選んだアイデアの創造性(新規性×事業性)から、そのチームの創造点の最高点を差し引いた数値」で算出しました。

優れたアイデアを出していても、最も良いアイデアを選べなかったら「アイデア選択」はマイナス点になってしまうのですね。

当初の仮説は「チームの知識創造活動の成果と熱中対話の長さは、正の相関にある」でした。均等で活発な議論の時間が長いほど、良いアイデアが出て、良いアイデアを選択できて、一体感も高まる。そう考えていたのです。

しかし、実験の結果は仮説と違うものになりました。アイデア創出と凝集性は正の相関になりましたが、アイデア選択は負の相関になったのです。

次のページへ先生の所属や肩書きは2024年4月当時のものです。