愛知学院大学 経営学部 経営学科 准教授
ひと口に「信頼」といってもさまざまな種類がありますが、企業に対するヒアリングから、リモートワークでは「相互信頼」が重視されていることがわかりました。各メンバーが責任感を持って自身の役割を果たすとともに、他のメンバーの進捗を把握して、必要に応じてサポートを行う。そのためには一方的に相手を信頼するだけではなく、相手からも信頼される状態でなければいけません。
そこで「進捗状況の把握」「コミュニケーション」「必要に応じた援助」の3つに焦点を当てて、各チームにおけるこれらの要素を質的・量的に分析することにしました。
「進捗状況の把握」は、グループウェアでの連絡の頻度とテキストを解析し、電子ポストイットツールの付箋の数をカウントして、8月と12月の面談で確認を行いました。
「必要に応じた援助」は、チームメンバー同士の援助に関するアンケートを8月に行い、その回答を元にインタビューで詳細を確認しました。
「コミュニケーション」は、5月・6月・7月に各チームで行った1時間半のオンラインワークショップの動的データから「発話量」「うなずき」「笑顔」「静かな間」の4つを定量化しました。
発話量はHylableという発話量測定システムを活用しました。ブラウザ上で動作するクラウド型Web会議システムを使えば、誰が何分話したか、誰と誰が会話をしたか等、会話の様子が見える化できます。このシステムの導入には、いただいた研究費を活用させていただきました。
うなずきと笑顔、静かな間は、人の目で確認をして数値を出しました。
うなずきとは首を縦に振る動作ですが、これは「相手の意見に賛同の意を示す」以外でも生じる可能性があります。笑顔を浮かべるときも、喜びや感謝以外の感情が伴うことがあります。そのため、うなずきの定義を定めたり、笑顔の種類を3つに分けたりして、参加した学生に動画を見てもらい、真意を確認した上で数えてもらいました。その後、私がダブルチェックを行いました。
最も時間がかかったのは「静かな間」です。これも先行研究から6つの分類を作り、生じた間の意味と時間、回数をカウントしました。さらに間の前は誰が何を話したのか、間の後は誰が何を話したかなど盛り上がり、盛り下がりも分析しました。
はい。たとえば「静かな間」は、5月よりも6月のほうが回数は減り、「誰かの意見や発言を受けて、考えている」という種類の間の割合が高くなりました。加えて、うなずきの回数も増えました。これは4月にチームを組み、メンバー同士の親和性が高まってきたためと考えられます。
8カ月間のプロジェクトで生じたチームワークの変化が、相互信頼の醸成にどのような影響を与えたのか。それを知るために、これまで収集したデータをベイジアンネットワークモデルで分析しました。
ベイジアンネットワークは機械学習のアルゴリズムのひとつで、複数の事象の因果関係をネットワーク図で表現し、ある事象が起こった時に他の事象が起こる確率を推論する手法です。
これまでご説明した「ワークショップ」「相互信頼感」という事象の他に、各メンバーの外向性や協調性などの5つのパラメータをアンケート調査から数値化した「メンバーの性格」、Sカレで12月に発表した各チームの企画に対する外部評価とメンバーの満足度を数値化した「アイデアの価値」を加えて、下図のように相互信頼感の因果関係の概念図を設定しました。これは「相互信頼感は、ワークショップの活動(発話量など)とアイデアの出来栄えに影響を受ける」、そして「ワークショップの活動とアイデアの出来栄えは、メンバーの性格に影響を受ける」という考え方です。
分析の結果、相互信頼感に影響を与えているのは黄色マーカーの要素であり、「チームメンバーの役割の履行がうまく機能していれば、アイデアの独自性が高まる」、「開放性の高いメンバーが属しており、ワークショップでうなずきと笑顔が多く、アイデアの満足度が高いチームは、メンバー同士が必要な場面で援助し合っている」という結論が出ました。