地域共助社会を促進する人・システム協調型スケジューリングによる生活機能の再設計と社会実装
小島 一浩 先生

産業技術総合研究所 人間拡張研究センター 共創場デザイン研究チーム チーム長

そのシステムを、今回の対象地区である鶴巻二区自治会に提案されましたが、どのような反応だったのでしょうか。

鶴巻二区は、徒歩圏内に生活必需品を購入できる商店がありません。そのため買い物を支援するシステムを提案したのですが、地域住民の方々に話を聞いてみると「現在は車を運転できるため買い物の悩みはないが、5年後や10年後に対する不安はある」とのことでした。

そこで、現地に何度も足を運び、自治会の役員の皆さんとまちづくりの方向性について、膝を詰めて協議を重ねました。その結果「安心して住み続けられるまちづくり」を最終目的として、鶴巻二区自治会が開催するさまざまなイベントに多くの地域住民が参加できる環境をつくる、その際に地域の商店から生活に必要なものを購入できるシステムを組む、という方針が決まり、2019年4月から活動が始まりました。

このスタートラインに立つまで、やはり1年かかりました。3年間助成していただけたからこそ実施できたのだと、心から感謝しています。

地域のニーズが想定と異なっていたことで、システムに変更が求められたのではないですか。

当初は注文をタブレットで行う仕様でしたが、地域の方々の要望により、申し込み用紙に記入して提出する形に変更しました。また、1回のイベントに集まる人数は20人程度のため、ユーザーインターフェースやスケジューリングは不要になりました。ただし注文内容の処理などのバックエンドは、システムによって自動化・簡略化を図ります。

買い物のお知らせチラシと、紙媒体の注文書

ロボットアシストウォーカーは、歩行が困難で自治会の活動に参加できない住民のための外出支援ツールとして活用することになりました。幸いなことに、介護保険の対象になっていました。それまで介護保険で活用されていなかったのは、このようなロボットが、介護保険に関わる人々に認知されていなかったためです。

そこで、ケアマネージャーをはじめとする介護保険の関係者に対して、ロボットアシストウォーカーを知ってもらうための勉強会や体験会を開催することにしました。

研究活動の終了後も、継続してロボットアシストウォーカーを使える体制づくりに努めた

かなり大きく変更されていますが、一度構築したシステムを変えることに、抵抗感はなかったのでしょうか。

計画通りに実施することは大事ですが、社会実装の研究においては、地域の人々と最終目標の合意形成ができたなら、到達までの道筋は状況に応じて変更する柔軟さが重要だと思っています。

7月に領域代表者の西田佳史先生がサイトビジットで現地を訪れてくださったときも「地域のコミュニティ性を高めて安心に生活できるまちづくりを目指すなら、何を実現するために、どの技術をどのように活用していくかが重要になる」と、背中を押していただきました。

最終目標にたどり着くまでは、まだ何年もかかります。まずは、ロボットアシストウォーカーを介護保険のケアプランの選択肢として選べる状態にして、これまで外出が困難だった人々が地域の行事に参加できるようになる。それが、この助成期間中の目標です。

地域住民との関係づくりや、課題解決方法の合意形成を行う上で、先生が大切にしていることは何ですか。

哲学の手法で、互いの関心の違いを認め合うという思考の原理があります。自分の考えを一旦保留し、相手の考えを受け入れて、2つの異なる主張を一致させるためにはどうしたらいいのかを、相手とともに探っていく。双方が納得できる“落とし所”を探るのでなく、もう一段階上の、双方の主張が損なわれることなく叶う合意点を見つける。これを創造的合意形成といい、私はこれを重視しています。

地域の人々になかなか受け入れてもらえなかったとき、私は従来の科学技術方法論とは別の方法論が必要なのではないかと思い立ち、それまで触れたことのなかった哲学を学んで、自分の思考方法を変えました。もちろん、その方法のみで上手くいったわけではありませんが「今までと違う方法で進めてもいいんだ」と、目の前が拓けた気がしました。

今までの科学技術の方法論にはないやり方、哲学や心理学、経済学の方法論を学ぶことが、社会実装に役立った