産業技術総合研究所 人間拡張研究センター 共創場デザイン研究チーム チーム長
鶴巻二区自治会の方々とも、最初は目指す方向性がまったく違いました。ですが、信頼関係を築き、何でも話せるようになり、目指すべき方向が一致した瞬間には、研究の途中であっても、大きな喜びと達成感がありました。
人間関係を良好にするための方法ですが、創造的合意形成の実践は地域住民やステークホルダーとの関係構築に有効であり、科学技術の発展に寄与すると考えています。そこで、その方法を哲学用語で整理し、哲学と経済学から社会実装に活用できる部分を抜き出してフレームワークを構築し、誰でも再現できる知識として確立させました。現在、産総研のデザインスクールでその成果を教授するとともに、東京大学、千葉大学、三井不動産と産総研による「柏の葉まちづくり」プロジェクトでも取り入れています。
私が社会実装の研究に取り組むようになった当初は、まだ社会実装という言葉自体がなく、条件に合致する助成金制度はわずかでした。近年においても、毎年さまざまな助成金制度に申請を出していましたが、私が産総研に所属している技術者であること、社会科学分野での実績がないことから、なかなか採択されず悩んでいました。
そんな中、セコム科学技術振興財団のホームページに出会い、この特定領域研究助成を発見したのです。西田先生の研究領域は理系・文系で区別できない先端的な生活科学領域ですから「ここなら自分の研究が条件にあてはまる」と思い、申請しました。面接でも、対象地域との協働関係ができているのか、気仙沼市以外に適用できるシステムになるのかといった、私がこの研究で重視している部分への質問が多く、今までにない手応えを感じて嬉しい気持ちになったことを覚えています。おそらく、この特定領域に申請した他の研究者の方々は、同じような気持ちを抱いたのではないでしょうか。
先ほども少しお話ししましたが、社会実装には地域住民やステークホルダーとの信頼関係の構築が大前提であり、それは最も時間がかかる作業です。助成期間が3年間という長期間であったからこそ、信頼関係をしっかり構築しながら取り組むことができました。
また、頻繁に現地を訪問できたのは、それまで自分で作っていたプログラムを外注できるようになったためです。移動にかかる交通費も認めていだだき、たいへん助かりました。さらに、これまでの研究内容をシステム工学の視点で再整理し、利用可能な知識としてまとめ上げるための時間と余裕もできました。
現在の枠組みでは助成制度への申請が出しにくい、新しい領域で努力している研究者にとって、この特定領域研究助成は大きな助けとなるはずです。ぜひ多くの先生方に知っていただき、挑戦してもらいたいと思っています。