空中電磁探査データを用いた地震時斜面崩壊危険箇所および崩壊規模推定手法の構築と防止対策への適用に向けた実践的研究
野々村 敦子 先生

香川大学 創造工学部 創造工学科 防災・危機管理コース 教授

空中電磁探査から、どのようなデータが得られるのですか。

岩盤の中に空間(隙間)や水がどのくらいあるのかなどを示す「比抵抗数値」を取得できます。

例えば、山の岩盤の断面図を見ると、亀裂がある箇所とない箇所があります。亀裂がない箇所はしっかりとした岩盤であり、亀裂がある箇所は脆弱です。その脆弱な部分に大雨が降って多量の水が染み込み、地震による衝撃が加われば、斜面崩壊する危険性は高くなると考えられます。

ただし、比抵抗数値はあくまでも「地面の電気の通りやすさ」を示すもので、岩盤の状態を推定する材料にすぎません。実際に斜面が崩れやすいかどうかは、比抵抗数値以外に、周囲の地質や、その土地の気候の特徴などの諸要因を考慮しなければなりません。同じ降水量でも高知県では何も起こらず、香川県では大きな土砂災害になったりします。地盤に火山灰質が多いのか、海底に堆積した地層だったのかによっても、発生可能性は異なります。

地震時斜面崩壊危険箇所推定手法の概要。比抵抗数値の他に、斜面の勾配や降水量など、さまざまな要素が関わっている

比抵抗数値の観測手法について、詳しく教えてください。

従来の方法では、ヘリコプターの下部に二次磁場を受信するセンサーを取り付けて観測します。しかし、そのセンサーは10メートル以上もの巨大な機器ですから、観測時には樹木に引っかからないようにしたり、付近を車で走行するドライバーの視界の妨げにならないようにするなど、実際の運用には種々の制約がありました。また、一度の計測にかかる費用も、狭い範囲だけで1フライト毎に数百万円かかることは、現実的ではないと感じていました。

ヘリコプターによる観測は、コスト面の負担や観測時の制約が大きい

かなり高額な費用が必要なのですね。

そうです。そのため、研究当初の計画では、新たに観測するのではなく、以前に観測したデータや国が所有しているものの活用を検討していましたが、最終的には、ドローンを使用することにしました。

ヘリコプターで観測した場合、一度に広範囲を観測できますから、大まかな状況把握に適しています。ただし、費用面やピンポイントの測定が難しいため、汎用性が低くなるデメリットもあります。

一方、ドローンでの観測は、ヘリコプターからの取得データとそれほど相違はない上に、ピンポイントでの調査がしやすいこと、機体が小さく小回りが利くため、ホバリングしての観測もできるなどのメリットが生じるのです。

ヘリコプターでは揚力が大きすぎて地表に与える影響が大きいため、長時間のホバリングはできません。また、二次磁場の測定は積分値のため、ドローンによるホバリングで、同じ場所をキープして観測を続けることで、シグナルが弱い場合でも精度の高いデータを取得できるようになりました。

さらに、研究開始3年目には、数を増やして2機での測定を試験的にスタートさせました。

ヘリコプターとドローンによる観測データ