空中電磁探査データを用いた地震時斜面崩壊危険箇所および
崩壊規模推定手法の構築と防止対策への適用に向けた実践的研究
野々村 敦子 先生

香川大学 創造工学部 創造工学科 防災・危機管理コース 教授

助成期間:平成30年度〜 キーワード:地理情報 環境・防災情報解析学 リモートセンシング 研究室ホームページ

2003年3月三重大学大学院生物資源学研究科博士後期課程修了。2003年4月から香川大学工学部助手を務め、2009年4月に香川大学工学部准教授、2021年4月から香川大学工学部教授となり、現在に至る。

先生は、学生時代から防災にご興味をお持ちだったのですか?

いえ。高校生の頃、サハラ砂漠の拡大化などの気候変動問題が世界的に注目されはじめ、その間接的な原因の一つが、先進国の排出する温室効果ガスだと知りました。自分たちの日常生活が、遠く離れた国へ壊滅的な影響を及ぼすことに強い衝撃を受けました。

大学3年生の時に国連大学グローバルセミナーに参加し、そこで三重大学のコンゴ民主共和国出身の先生と出会いました。「アフリカで働きたいのなら学位が必要だ」と教えられ、リモートセンシングとGISを使用し、アフリカ大陸の植生の分析で学位取得を目指すことにしました。また、故郷を離れながらも、自国の自然環境保護のために熱心に研究される先生を見て「自分の研究動機はなんて薄いのか。私も日本のために頑張ろう」と決意を新たにしました。

具体的に何をすべきか模索していた2004年のことです。梅雨前線の活発化と10もの台風上陸による水害、および新潟中越地震などが相次ぎました。当時は香川大学で勤務し始めたばかりの頃で、比較的気候が安定しているといわれている香川県でも台風被害が起こりました。これが直接のきっかけとなり、防災の研究を始めたというわけです。

学生時代はアフリカ大陸への関心が強かったという野々村先生

2000年代以降、豪雨や地震など大規模な災害が多発しています。それに伴った地滑りも全国で大きな被害を引き起こしました。

豪雨や地震などの災害時には、斜面崩壊による二次被害が全国で発生します。たとえば平成30年の西日本豪雨では、記録的な豪雨による土砂崩れで高知自動車道立川橋の橋桁が流出する等の甚大な被害が起きました。

今後起こりうると想定されている南海トラフ巨大地震でも、斜面崩壊によって主要幹線道路が寸断される可能性は十分にあります。それによって緊急輸送路としての機能が十分に果たせなかったり、集落孤立などの諸問題が引き起こされる可能性があります。

また、斜面崩壊の被害想定を行う従来法では、深さ2m程度の表層崩壊までを予測できても、深層崩壊に適用はできません。

そのため、表土よりかなり深くに隠れている基盤岩の状態を測定し、そのデータから斜面崩壊の危険箇所と規模を推定する手法を構築することにしたのです。

岩盤の危険箇所を、どのように見つけるのでしょうか。

空中電磁探査という手法を用います。地面に送電線を敷設し、電流を流すことで磁場が発生、電磁波が照射されます。この影響によって二次磁場が発生するため、それを上空のセンサーで捕捉するのです。今回の研究では、深層崩壊に対応できる深度5〜30mをターゲットにしています。