安全・安心のための即時耐震性能表示装置の実証研究
楠 浩一 先生

東京大学 地震研究所 教授

現在、国内外でどれくらい設置されているのでしょうか。

国内では30棟以上、関東を中心に名古屋市、広島市などに設置しています。また、設置対象を歴史的建造物にも拡大し、日常的なモニタリングによる見学者の安全・安心にも貢献しています。国外設置は、ネパール、ペルー、ギリシャ、トルコ、アメリカです。

2019年に広島平和記念公園内のレストハウス、先日のサイトビジッドでは善通寺五重塔にも設置済み

この特定領域研究助成では、サイトビジッドで領域代表者の金田義行先生から貴重なご意見がいただけることはもちろん、審査委員の方々からも多くのコメントをいただきました。その中でも「海外の地震国に対して、日本の技術としてアプローチしてはどうか」と、国際化を推進して下ったことが後押しとなり、海外への設置拡大を進めました。それがキッカケとなり、SATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム:Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development)という大型の国際プロジェクトの採択に繋がりました。

機械学習の導入も、情報工学との連携をご提案くださったおかげです。社会のIoT化が進む中、建築業界も情報技術との関わりが深くなってきたことを実感しています。

特定領域研究助成では、多くの刺激と新しい気づきを得ることができた。実証の研究だからこそ大所高所な意見をもらえて、それがとても有り難かった

確かに、最近は住宅に多様なセンサが導入され、さまざまな便利機能をスマートフォン操作で実行できるようになりました。

みなさんの家の中にどのようなセンサやネットワークがあるのかは、街の電気屋さんが最も把握していると言ってもいいでしょう。そのため、最近はこのシステムについて「弁当の主役のおかずではないが、いつも入っているもの」と考えるようになりました。すでに設置されているセンサ群とそれらを繋ぐネットワークの中に、安全に役立つオプション機能として加える形であれば、導入コストも抑えられます。

数十年に1回しか訪れない大地震のためのセンサでは、どうしても設置は進みません。ですが、小さな地震は日常的起こるため、建物の劣化診断に役立つのであれば可能性は広がります。劣化していないことが明らかになれば、これまで定期的に行ってきたメンテナンスの時期を遅らせることも可能でしょう。現在、そうした機能を実装するための開発も行っています。

将来的には、独立した防災システムとしての導入ではなく、情報分野と統合した日常生活ネットワークのひとつになる、ということですね。それでは最後に、セコム科学技術振興財団へのメッセージをお願いします。

即時耐震性能表示装置は、一般研究助成に採択していただいてから約10年かけて、ここまでたどり着きました。実は「実用化の一歩手前」のステージに入った研究は、最も研究予算がつきにくい状態となります。技術がほぼ完成していても、商品化のために必要な研究開発があることは、なかなか理解してもらえないのが現状です。これは建築業界だけの問題ではありません。この特定領研究助成がなければ、おそらくこの装置も完成しなかったと思います。本当に感謝しています。

目的を大地震以外にも拡大することで、センサの精度向上がより重要となった。現在は商品用の加速度センサの開発を進め、誤差の軽減に成功。今後さまざまな検証を行う予定

南海トラフ地震や首都直下地震に備えるだけではなく、日常的なメンテナンスや、歴史的建造物の安全性を確保するためにも、この即時耐震性能表示装置がますます社会にとって必要になると感じました。お忙しいなか長時間のインタビューにご対応いただき、ありがとうございました。