東京大学 地震研究所 教授
助成期間:平成30年度〜令和2年度 キーワード:鉄筋コンクリート構造 耐震構造 構造物ヘルスモニタリング 研究室ホームページ1997年に東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了し、同年、東京大学生産技術研究科第一部助手として勤務。2000年には建設省建築研究所第4研究部の研究員、翌年に建築研究所構造研究グループ主任研究員となる。2006年に横浜国立大学大学院工学研究院にて助教授となり、2014に東京大学地震研究災害科学系研究部門に准教授として異動、2018年に教授となり現在に至る。
はい。本システムは、地震直後に建物の構造被害を自動で判定するものです。タイトルに実証研究と書いたように、一般研究助成のおかげで社会の仕組みとして実装される直前まで開発が進みました。ただし、商品として普及するためには、まだクリアすべき課題があり、今回はその解決のために研究開発を行いました。
現在、大きな地震が発生したとき「その建物は安全か、危険か」は、専門家が目視で調査して3段階に評価し、結果を示す紙を貼る「応急危険度判定」という仕組みがあります。しかし、これはたいへん時間がかかる方法であり、被害が広域になるほど調査は長期化します。南海トラフ地震や首都圏直下地震が発生した場合、都心には超高層の建物が多いため、ますます迅速な対応が困難となります。
そこで、応急危険度判定と同じ基準で、建物の被災度をリアルタイムで自動判定するシステムが必要と考え、研究を開始しました。以前のインタビューでもご説明したように、建物に加速度計と評価装置を置くことで、本震によって生じた建物変位を算出し、さらに本震と同じレベルの余震がきた際の変位を推定して、建物が倒壊するかどうかを判定するものです。
他の既存のシステムでは、あらかじめコンピュータが「これくらいの地震がくれば、損傷はこれくらいになる」、または「建物がこれくらい揺れたら(変形したら)危険な状態になる」というシミュレーションを行い、地震の大きさや建物の変形をセンサで測定し、それが想定の何割かによって被害を予測します。
ですが、最新技術で造られた建物であっても、大地震に見舞われた時に受ける被害が、必ずしもコンピュータシミュレーション通りになるとは限りません。そのため本システムでは、実際に測定した値のみを用いて、建物に与えられた力と変形の関係から、残存する耐震性を検証しています。
そうです。建物にかかる力は加速度として測定可能であり、変形はWavelet分解を導入した加速度の2階積分で算出できます。
下図グラフの赤い線が本震時の実測値で、青い点線は設計時に定められた要求曲線(地震が建物を変形させる力)、青い線は本震の要求曲線です。赤い線と青い線が交差した部分が、本震時の最大応答点になります。
本震を経験した建物は、地震のエネルギーを吸収して変形します。そのため、余震時のエネルギー吸収率は、以前よりも低下します。それが、黄色で表した余震時の要求曲線です。この余震の要求曲線と性能曲線が交差する点が安全限界点となり、それ以上変形すれば、建物は倒壊します。本震の最大応答点が余震時の安全限界点に近いほど、被災度が高くなるということです。