南海トラフ地震の事前情報発表時における組織の対応計画作成支援パッケージの開発
福島 洋 先生

東北大学 災害科学国際研究所 災害理学研究部門 准教授

起こる現象によって、政府は臨時情報の出し方を変え、注意喚起を促していくのですね。

そうです。政府は、基本的な対応の考え方についてのガイドラインを出していますが、各々の組織や個人がどのように行動すべきか、具体的な指示を出すことは不可能です。

自治体、公共機関、メディアなどの組織は特に、複数の起こりうるシナリオについて準備しておくとともに、想定するシナリオ通りに事態が推移しない場合もあるということを頭に入れておくべきです。しかし、多くの組織の場合、実際に組織で対応計画を作成する担当者は、臨時情報が出た時にどの程度踏み込んだ対応をすべきなのか、具体的にどのようなシナリオについて準備しておかなければならないのか、関連組織はどう動く可能性があるのか、そういったことについて理解する手段がありません。このような状況だと、実際に臨時情報が出たときに、本来は取ったほうが良い行動が取れなかったり、逆に不必要な行動を取って社会が混乱したりといったことが起こるのではないかと思います。それでは、せっかくの臨時情報が防災・減災に活かせません。

臨時情報が発表された際、その後に起こりうる現象、取りうる行動の選択肢、社会の様々なアクターの相互関係などを総合的に研究し、また、その知見を役立てられる形で社会に発信していくことが必要だと思っています。

前回の南海トラフ地震の後に、どの程度エネルギーが蓄えられたかは、ある程度把握できている。
だが、蓄えられたエネルギーがいつ地震によって開放されるのかは、大きな不確実性がある

その研究が行われるとしたら、かなり幅広い分野の研究者の力が必要になりそうです。

その通りです。そこで私は、文理の枠を超えた学際的な研究者14名とともに、現象評価研究班、対応行動体系化班、社会影響研究班の3班を組織しました。南海トラフ地震臨時情報が発表された場合に、キー組織が有効な対応ができるための「対応計画作成支援パッケージ」の作成をテーマとして設定し、研究を深めていくことにしたのです。

その3班について、詳しく教えて下さい。

現象評価研究班は、まずは半割れケースに着目し、南海トラフ地震が一回起こったあとに、どのような確率で後発の地震が発生する可能性があるかをわかりやすく示すための「南海トラフ地震推移確率表」と、後発の地震による津波浸水確率などを色分けなどの工夫を凝らして一目で理解できる津波リスクマップの開発をしています。

対応行動体系化班は、民間企業を業種別に分類する等の、キー組織の類型化を行ったうえで、その類型毎に「推奨対応レシピ」を作成しています。さらに、自治体や企業と連携することで、その普及も目指しています。

社会影響研究班は、組織の対応方法の整合性を分析したり、Web調査を通じて住民の避難に影響する要因を調べたり、住民視点も取り入れた対応方法を探ったりするなど、社会影響の観点から推奨レシピの検討や、より効果的な対応方法の探索を担当しています。

この15名からなる大人数のプロジェクトを、3つの班体制で整理し、上手く連携させることが、私の大きな役目でもあります。