東京大学 定量生命科学研究所 分子神経生物学研究分野 准教授
最初に調べたのは、若齢マウスと高齢マウスの、大脳皮質(長期記憶に重要)と海馬(短期記憶に重要)のニューロン核における遺伝子発現です。
その結果、大脳皮質ニューロンは遺伝子発現を測定することで、個体が若齢か老齢かを推測できることが示唆されました。一方で、海馬ニューロンの遺伝子発現は、若年と高齢で明確な違いが現れませんでした。
次に、海馬ニューロンのエピゲノム情報に対して解析を行った結果、ある特定の働きを持つエピゲノム修飾のみ、加齢とともに変化することがわかりました。この変化したエピゲノム情報の解析をさらに進めたところ、老齢のニューロンと若齢のニューロンが綺麗に分離しました。
はい。次の目標は、エピゲノム情報を書き換えることでニューロンの機能、とくに記憶力を回復させる方法の確立です。そのためには、老化によって「どの修飾が「どの場所で」変化したことが記憶力低下の要因となるのか、突き止めなければいけません。
そこで、海馬ニューロンのエピゲノム修飾に対して、若齢と高齢で有意に変化しているゲノム領域を調べてみました。
結果、やはり特定の働きを持つエピゲノム修飾で有意な変化を確認できました。その中でもとくに特定のエピゲノム修飾が大きく減っていた領域があったため、現在はその領域に着目し、研究を進めています。
さきほどお話ししたように、エビゲノム修飾は遺伝子の「今から転写する部分」「転写してはいけない部分」「後で転写する部分」などを区別します。つまり、加齢にともなうエピゲノム修飾の変化によって、ニューロンで特定の遺伝子が不適切に発現しやすい、または発現が抑制される状態へと移行しているのであれば、老化した脳の機能が低下していることと、何らかの関連性があると考えられます。
それを明らかにするためには、現在着目しているエピゲノム修飾の量を人為的に操作した場合に、どのような影響が生じるのか。確認すべきことは、まだまだたくさんあります。