先端数理分野
先端数理に基づく安全・安心な社会実現のための将来予測・因果解析技術の開発とその実装

合原 一幸 先生

領域代表者 
東京大学 特別教授・名誉教授
東京大学国際高等研究所IRCN 副機構長

研究の発展には、コラボレーションが重要な要素

多くの数理手法が、日々着々と発展しています。その手法を社会に応用するためにはデータの活用が重要です。幸いにも、今はデータが豊富な時代です。特にこの10年はICTやセンサー技術の進歩によって、多くのデータが取れるようになってきました。

重要なのは、異分野同士のコラボレーション

さらに、数理の研究は複数の研究者と手法が出会うことで、より大きな成果が出ることが多々あります。もちろん1人で理論を構築する時間も大事ですが、特に応用分野では複数の研究者が同じ問題に一緒に取り組み、異なる手法を組み合わせることで一種の非線形効果、シナジー効果が生まれるのです。私自身もこれまでにそうしたコラボレーションを通して、他の研究者とともに研究を発展させてきました。

そのため、今回採択された研究者同士は定期的に進捗報告会を行い、ディスカッションを重ねています。異なるテーマを持つ研究者がバランスよく集まっているため、シナジー効果が高まる環境が実現しています。

また、アドバイザーとして小谷元子先生と鈴木秀幸先生に入っていただいたことも、非常に大きな意味を持ちました。私自身は数理工学という応用ベースの数学が専門ですが、小谷先生のご専門は純粋数学です。鈴木先生は数学科を卒業された後に私の研究室に入られたため、純粋数学と数理工学の両方を学んでいます。純粋数学と数理工学、そしてその両者を繋ぐ3名が集まったことで、理想的な体制が生まれたと実感しています。

このように研究者同士がコラボレーションできる領域の構築は、とても先駆的で効果的な試みです。

まずはデータに語らせる

昨今、因果解析の数学理論が非常に発展し、微分幾何学とも結びついて深い理論になっています。研究テーマとしても人気があり、多くの研究者が取り組んでいます。  

その解析手法は、大きく分けると2種類あります。ひとつは、ある程度解明された現象のネットワーク構造を基に解析する方法。もうひとつは、仮定や先見的知識なしに真っさらな眼でデータを見る方法です。

私は、データが語る言葉を取り出す後者の方法が好きです。データの語りを「聴く」ために数学を使うことは、数理モデルではなく「数理データ解析」と言います。

たとえば、ある患者の様々な健康データを解析することで「この患者は今後○○(病気)を発症する可能性が高い」という未病状態を明らかにできれば、「データに語らせる」ことで病気のリスクを発見し、超早期治療に繋がります。

子どもの頃の夢、そして今の夢も、昆虫学者になることだという合原先生

数理工学の分野は、「解なし」と証明されたら終わり、ではありません。病気や災害、エネルギーや環境など、現実の問題を対象としているため、たとえ真の解が存在しないと証明されても、なんらかの方法で近似する解を作らなければ、問題に対処することができません。解がないと証明された問題であっても諦めず、多くのデータも場合によっては駆使して背後の個々の問題を抽出し、さまざまな工夫をして課題解決を目指す。そういう学問なのです。

21世紀に残された問題は、ほとんどが解決が難しいものであり、広い意味で複雑系の問題として扱うことができます。解決すべき重要な問題が山のようにあるなか、数理研究者は各々に興味あるテーマで研究を深め、幅広い分野に貢献しながら、世の中の問題を少しずつ解きほぐしているのです。