先端数理分野
先端数理に基づく安全・安心な社会実現のための将来予測・因果解析技術の開発とその実装

合原 一幸 先生

領域代表者 
東京大学 特別教授・名誉教授
東京大学国際高等研究所IRCN 副機構長

数理モデル 数理工学 数理的基盤 非線形解析 因果解析 複雑系
研究室ページ

東京大学大学院工学系研究科電子工学専門課程博士課程修了。1998年東京大学大学院工学系研究科教授、1999年同新領域創成科学研究科教授、2003年同大学生産技術研究所教授等を経て、2020年東京大学名誉教授となり現在に至る。この間、JST・ERATO合原複雑数理モデルプロジェクト研究総括、内閣府/JSPS FIRST 最先端数理モデルプロジェクト中心研究者、東京大学最先端数理モデル連携研究センターセンター長等を務めるとともに、現在東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構副機構長、内閣府/JST ムーンショット型研究開発事業プロジェクトマネージャー、理化学研究所革新知能統合研究センター特別顧問、科学技術振興機構研究開発戦略センター特任フェロー、同未来社会創造事業テーママネージャー等を兼務。

コロナ禍で社会に認識されるようになった「数理モデル」

「数学」と聞くと、純粋数学の難問を解くといった学問を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、私の専門である数理工学は、実世界の諸問題を解決するために方法論として数学を使う学問です。実世界で起きている問題を、数学という言語で表現していく。このプロセスが「数理モデリング」と言われるものです。  

感染拡大状況は、単純化すると感受性者数(Susceptible)、感染者数(Infections)、回復者数(Recovered)の3つの変数を使って表現できる(SIRモデル)

新型コロナウィルス感染症への対応に関しても、数理の力が発揮されました。感染者数の増大を記述する感染症数理モデル(単純な例としてはSIRモデル)が連日メディアに登場し、研究手法として世界中で活用されました。コロナ禍によって、数理モデルという言葉が頻繁にメディアに取り上げられるようになったのです。

たとえば、下図のS(Susceptible)は現在感染していないがこれから感染する感受性者と呼ばれる人、I(Infections)は感染した人、R(Recovered)は回復した人です。

感受性者(S)は、感染した人(I)との接触によって感染します。そのため、感染過程はSとIの積の項、非線形の式で表すことができます。このSIRモデルを様々に拡張した数理モデルが毎日の感染者を予測する基礎方程式として使われ、オーバーシュート(爆発的感染者急増)と呼ばれる波等を予測可能にしました。

数理の強みで世の中の課題を解決する

数学では、起きている現象をある程度抽象化して、データ解析手法や数理モデルを作ります。したがってその手法は、しばしば全く異なる分野でも活用できるという強みがあります。感染症の拡大状況はもちろん、交通渋滞や経済活動の変化の予兆を検知したり、溶鉱炉の炉内状況などの複雑な工学システム分野にも応用できたりと、様々な分野で活用できるのです。

21世紀に残された重要課題の多くは、広義の複雑系の問題として捉えられる

世の中で起きている問題の原因は一方向ではなく、多くの原因と結果が複雑に絡みあって発生しています。因果関係が、一種のネットワークになっているのです。多数の要因があり、多数の結果が生じている。このようなネットワークを数学的に理解して解析を行うことは、諸問題の解決や予測、制御への一歩になります。

複雑に絡み合っている因果関係を、数理を使って一度抽象化し、解析して将来を予測する。これが安全・安心な社会の基盤づくりに繋がると考えていました。ですから、先端数理分野でこのような領域を作っていただいたことに、心から感謝しています。