東京大学 大学院 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 准教授
PRCは学習が簡易でエネルギー効率が良く、時系列予測やリアルタイム処理に優れているため、今後も世界中で開発が進むでしょう。
しかし、根本的な課題があります。どのような非線形力学系を用意すればどのような計算が取り出せるのかが、理論的に解明されていないのです。場当たり的に様々な物理系を利用しているのが現状ですが、本来そこには数理があるはず。私たちは、PRCにおける数理基盤を構築し、物理系からの入力がどのように変換され、どのような情報処理を可能としているかの解読を目指しています。
様々な物理系を使えることがPRCの利点ですが、リザバーが適切にはたらくためには前提条件があります。それは、リザバーの状態が系の初期状態に依存しないこと。言い換えると、リザバーの応答に再現性があることです。これをEcho State Propertyといいます。リザバーにEcho State Propertyがあるかどうかは、初期値を変えても、同じ入力系列に対して同じ応答を示すかどうかで、大まかに調べられます。
より厳密には、リアプノフ指数という指標を用います。ニューラルネットワークの内部重みを変化させると、非カオスからカオスになるとき、リアプノフ指数が負から正になります。物理系は、リアプノフ指数が負となるパラメータ領域でのみ、リザバーとなりうるのです。
PRCは、リザバーに固有な関数φと、出力に対して実験者が調整する関数ψとの組み合わせで、所望の関数をつくるフレームワークといえます。したがって、関数φの表現能力が分かれば、ブラックボックスとされていた情報処理能力が明らかになります。それを評価する指標にIPC(information processing capacity)があります。これは関数φを非線形の直交多項式で展開して、表現可能な出力を明らかにするものです。IPCの導入によりリザバー中の非線形性が解析され、PRCの計算能力の定量的な評価が可能になりました。
先ほど、リザバーが適切に働くための前提条件としてEcho State Propertyをあげました。ところが面白いことに、Echo State Propertyが成立しない物理系であっても、リザバーに使える可能性があることがわかってきました。出力が時間に依存しない系を時不変、依存する系を時変といい、時変な系はリザバーとして使えないはずなのですが、実験者が処理をして使えるようにしているケースが少なからずあります。
ケースごとに直感的に行われていた処理は、「時変・時不変」の観点から統一的に扱えます。例えばトレンド(傾向)を持った系に対して、実験者はリザバーとして使うためにトレンド除去の処理をします。それはまさに時不変化の処理なのです。いま私たちは、本来使えない物理系を使えるように変換する、より一般的な理論を構築しています。