長岡技術科学大学 技学研究院 電気電子情報系 教授
人の行動を決めるのは客観的データだけではない、ということです。共同研究者の松田曜子先生は、正常性バイアスが避難の決断を遅らせることを指摘しておられます。AIに任せれば何でも答えを出してくれる時代ですが、その答えは、納得感があって初めて受け入れられるのです。そのためには人間の肌感覚を統計的に裏付けることも必要です。AIの予測や提案が、専門家や近しい人の意見と合致すると、力を持ちます。AIと人間の感覚を両方使って、防災の社会実装を進めたいですね。
また、発災時にユーザーが慌てずにシステムを使うためには、操作への慣れが必要です。検索システムを防災に特化させるのではなく、食材で検索すればレシピを提案する機能を持たせるなど、ユーザーの日常に溶け込ませる仕組みも検討しています。
大学の方針でもある異分野産学地域連携を多方面で進め、文部科学大臣表彰をいただきました。これまでに実施した連携の中から数例、ご紹介しましょう。
画像認識の応用例として、AIカメラがあります。ロボットが磨いたカトラリーの品質を評価するAIカメラで、地場産業であるカトラリー生産をサポートしています。また、道路メンテナンスの企業に協力して、スマートフォンを車に乗せて走るだけで、点検が必要な箇所を自動で抽出してマッピングするシステムを作り、総務大臣賞をいただきました。
検索システムの応用例もあります。情報交換サービスの運営者から、投稿が増えすぎて、まさに情報の洪水が起こってしまった、と相談を受け、私たちの作ったシステムを使って改良を進めています。
研究とは、必ずしも予想通りの進み方や結果にはならないものです。本助成はそこを理解していただいたうえで、研究者を尊重し、たいへん柔軟性の高いサポートをしていただき、感謝しています。
また、領域代表者である合原一幸先生はじめ、同じ領域の助成研究者の方々と定期的に意見交換の機会をいただいています。これまで専門分野の人脈はあっても、専門が少し異なる研究者とはなかなかお話しする機会がありませんでした。今回、数理という横串で近隣の分野の先生方とつながり、議論できたことを、とてもありがたく思っています。