水害・雪害対策のための信頼できる連続的データ処理基盤の確立
岩橋 政宏 先生

長岡技術科学大学 技学研究院 電気電子情報系 教授

研究で得られた知見を社会に伝えることにも力を入れておられますね。

専門家による研究成果は、現実の課題解決に活かしてこそ意味があると考えています。

災害時、頼りになるのがインターネット検索です。しかし従来の検索システムは2つの課題を抱えています。情報が溢れていて必要な情報にたどり着けない「情報の洪水」と、自分の興味関心に偏った情報ばかりを取り入れてしまう「情報の偏食」です。

私たちは、これらの問題を解決する新しい検索システムを開発しています。このシステムでは、関連する話題ごとのクラスターで検索結果が表示されます。話題を象徴する重要な単語は大きく、関連性が高い単語ほど近くに配置するなど、直感的にわかりやすい表示です。これならば「情報の洪水」に流されずに必要な情報に辿り着けますし、自分の想定していなかった話題との関わりに気づき、「情報の偏食」から抜け出せます。

話題ごとにクラスタリングされた、検索結果の表示例

直感的に操作しやすく、幅広い年代の方に使ってもらえそうです。開発において特に工夫された点を教えていただけますか。

従来のAIは、単語どうしの関連性を共起頻度(特定のキーワードと同時に出現する単語の頻度)に基づいて判断します。しかし私たちは、時とともに変化する人々の関心を抽出することを目指し、SNSに着目しました。

SNS上の発言は雑多で、様々な見かけの相関(間接相関)が含まれてしまいます。そこで、統計学で用いられる間接相関と直接相関を区別する手法「Graphical lasso」を応用し、「Graphical Lasso-guided Principal Component Analysis(GLIPCA)」を開発しました。この新しい試みが成功し、間接相関が抑制されたクラスタリングが可能になりました。

GLIPCAのもう一つの大きな成果は、データを時系列信号(トレンド)として扱うことで、出現頻度の時間変化を考慮したグループ化に成功したことです。突発的に現れた事象を検出できるため、災害時の素早い意思決定の支援に役立ちます。

データクレンジングの手法開発に大きく貢献された、共同研究者の原川良介先生(右)。トレンドの抽出により、災害時も迅速にユーザーの行動変容を促せる

この検索システムは今後、どのように進化させたいとお考えですか。

既存のAIの多くは対象が限定されていますが、私たちの開発するAIは、言語、画像、音声、そしてSNS上の発言という、今までデータ解析の対象にもならなかったものまで分析できる、マルチモーダルAIです。さらに、すべてのデータをトレンドという一つの土俵で処理できることが大きな強みです。将来は、定点カメラの画像や天気図などを含む多様なデータを統合分析できる、より実効的な防災・減災システムを目指します。

周囲の風景を3次元で捉えられるカメラ(上)。カメラが集めた画像にタグ付けしてAIを学習させると、自動で道路状況を判断できるようになる(下)