東北大学 材料科学高等研究所 教授
1年目は、阪神高速道路池田線で「10分後の渋滞発生予測」に取り組みました。計算資源として用いたのは、車両検知器によって5分ごとに取得される車の平均速度や走行台数のデータです。
渋滞の発生前後のデータを選択的に入力した結果、既存の深層学習アルゴリズムを約10%上回る高精度で、渋滞を予測できる場合があることがわかりました。また、データ数やパラメータ数を大幅に削減するとともに、計算にかかる時間の短縮にも成功しました。
さらに、渋滞発生の予兆をとらえることができないかと考え、領域代表者の合原一幸先生が提唱されたDNB(動的ネットワークバイオマーカー)理論に着目しました。数学の分岐理論に基づき、健康状態から病気に遷移する直前に発生する生体信号の「揺らぎ」に着目することで、病気になる前の状態(未病)を検出するというものです。
渋滞発生直前の検知器データをDNB理論によって解析した結果、渋滞発生の前にDNBスコア(時系列の標準偏差と相関係数の積として定義)の変化として予兆が出現していることを確認できました。
2年目には、1年目に得られた渋滞発生の予兆に関するDNB理論のデータ検証を行いました。これにより、5分前の予兆よりもさらに前、DNBスコアの特徴的な変動を検出できました。この結果は、その詳細解析とともに現在論文発表の準備中です。
これらのデータ解析により、時間経過によって現象が変化していく「環境物理リザバー」が計算資源に適していること、すなわち渋滞の生成と消滅を繰り返す交通量の状態変化が、予測精度の向上に寄与するということが明らかになりつつあります。
はい。実際に高速道路を走行しながらデータ収集と計算を行い、渋滞の発生の有無を検証しました。また、ミニチュア交通模型で実データを収集し、観測された変数(速度、加速度、消費電力)から交通量、渋滞発生時間、消費電力などの変動の高精度予測にも取り組みました。その結果、人の意思決定と自律運転のバランスによって車両の流れ全体のエネルギー効率が向上する可能性も見出しました。