特定領域研究助成 チームワーク科学 第1回シンポジウムを開催

令和6年5月12日(日)、東京・文京区の東京大学情報学環・福武ホールで、「セコム科学技術振興財団 特定領域研究助成 チームワーク科学 第1回シンポジウム」が開催されました。

本シンポジウムは、セコム財団が令和3年度から特定領域研究助成・チームワーク科学分野で実施している「チームワークに関する革新的な研究アプローチの確立と分野横断的研究領域の創出」(領域代表者 堀井秀之・(一社)日本社会イノベーションセンター 代表理事)の研究活動の普及啓発を目的として開催されたものです。キーノートに、創造性(クリエイティビティ)研究の第一人者であるノースカロライナ大学チャペルヒル校のキース・ソーヤー教授(DR.R.KEITH SAWYER)をお迎えし、大学や研究機関の研究者のみならず、民間企業の方々や小中高等学校の先生方など、当日は150名を超える参加がありました。

領域代表者である堀井秀之・(一社)日本社会イノベーションセンター 代表理事から開会の挨拶があり、シンポジウムが始まりました。


開会の挨拶をされる、領域代表者の堀井秀之先生

最初に、キース・ソーヤー先生から「Collaboration and learning: The sociocultural approach in the learning sciences」のタイトルでキーノートスピーチがありました。

スピーチでは、まず社会科学分野の中での社会文化的なアプローチの歴史について解説があり、ソーヤー先生が「人間の認知活動は社会の中に埋め込まれており、個々人の心理だけを見てもわからない。社会文化的な文脈の中で人間の認知活動を捉えなければならない」との考えに至った経緯について紹介がありました。さらにその考えから生まれてきた「学習科学」という学問分野の歴史について解説がなされました。

つづいてソーヤー先生の研究の理論的な枠組みについて、「協調的創発」をキーワードとして紹介がありました。

社会文化的な文脈の中での人間の認知活動として、ジャズアンサンブルや即興演劇アンサンブルに着目し、これらの研究から、社会文化的なグループの現象は個人間の相互作用から創発され、そこに至るまでに即興的なプロセスを経ていることがポイントである、という「協調的創発」の考えに至った経緯が紹介されました。

さらに「協調的創発」の理論を学習にどう活かせるかについて、学習と知識は創発的であり、社会文化的な文脈では、個々人の知識が共有されるのではなくグループそのものが知識を所有すると考えることが重要であること、ゆえに実証的な分析を通して、個人間の相互作用に焦点をあてなければならないことが紹介されました。


キーノートスピーチをされる、キース・ソーヤー先生

次に、特定領域研究助成・チームワーク科学分野で研究を進められている田岡祐樹先生(東京工業大学)から、「チームワーク科学の概観」のタイトルで講演がありました。

本講演では、チームワーク科学の研究は分野横断的な性格をもっているため、全体を俯瞰して今後を推察するための材料を提供することが趣旨であるとの説明がなされ、これまで様々な学会や論文誌で発表された70を超える論文を4つの視点から分類し、俯瞰した結果が紹介されました。


講演をされる、田岡祐樹先生

続いて、特定領域研究助成・チームワーク科学分野の研究報告として、令和3年度に新規採択され、これまで2年半にわたり研究を進めてこられた6件の課題について、研究代表者の先生から報告が行われました。

  • 田岡 祐樹 先生(東京工業大学)「イノベーション教育のための自然言語処理によるチームワークのリアルタイムモニタリング方法の開発」
  • 前田 貴洋 先生(琉球大学)「社会課題解決のためのアントレプレナーシップとそれを支えるチームワークに関する研究」※1
  • 竹田 陽子 先生(中央大学)「ビジネス企画チームにおける多元的視点取得の研究」
  • 油井 毅 先生(愛知学院大学)「チームワークが醸成する信頼 ~ハイブリッド型PBLを手掛かりに~」
  • 彭 思雄 先生(中央大学)「知識創造活動における熱中対話の先行条件とその効果:視聴覚データを活用して」
  • 鬼頭 朋見 先生(早稲田大学)「リーダーシップとフォロワーシップの創発に関する研究」※2
  • ※1前田 貴洋 先生は当日欠席のため共同研究者の林 嶺那 先生(法政大学)が発表しました
    ※2鬼頭 朋見 先生はオンライン形式での発表となりました

報告をされる先生
(上段左から、田岡先生、林先生、竹田先生、下段左から油井先生、彭先生、鬼頭先生)

報告のあとには、ソーヤー先生から「いろいろな形の研究が行われていて、これからの領域だろうという印象をもった。研究の方法論は複数あるが、せっかく一堂に会しているので、方法論の対比だけでなく、それの融合を考えながら新しい方法論、理論、モデルを作ってほしい。それにより、今は分かっていないチームワーク科学の知見が現れてくるだろう」とのコメントをいただきました。


報告にコメントをされるソーヤー先生

続いて、特定領域研究助成・チームワーク科学分野の選考員の先生方にソーヤー先生を加えたメンバーによる、パネルディスカッションが行われました。

  • モデレータ 領域代表者 堀井 秀之 先生((一社)日本社会イノベーションセンター)
  • パネラー 選考員 大島 純 先生(静岡大学)
  • パネラー 選考員 稗方 和夫 先生(東京大学)
  • パネラー 選考員 山口 裕幸 先生(京都橘大学)
  • パネラー     キース・ソーヤー 先生(ノースカロライナ大学チャペルヒル校)

パネラーの先生方
(上段左から、堀井先生、大島先生、稗方先生、下段左から、山口先生、ソーヤー先生)

堀井先生から、1)分野横断的であることを主張する研究領域はこれまでもいろいろあるが、分野横断的なのは本当にいいことなのか、チームワーク科学分野のこれからの発展を考えるときに分野横断性をどう考えるのか、2)具体的にどのようにやっていけば、チームワーク科学が発展していくのか、との問題が提起されました。

山口先生からは、幅広い領域の中の人たちと意見を交わしながら進めていく中で、チームワーク科学の学問の輪郭が固まってくるという流れがよい、とのコメントがありました。

稗方先生からは、領域横断そのものを楽しいと思う人が集まるのではないか、発散だけになる危惧はあるが、人が集まればその中でいい研究成果が出る可能性が広がるのではないか、とのコメントがありました。

大島先生からは、自身の専門分野である学習科学の創成期を経験してきたことを紹介したうえで、チームワーク科学はまさに同じ状況にあり、どっちに転ぶかわからない。その状況を若い研究者が楽しむためには、発散や収束とは無関係にさまざまな人たちがアイディアを高める「カフェ」が欲しい。セコム財団のチームワーク科学でおこなっている研究会はカフェだと思った。そして発展のために必要なのは「チームワーク」であり、たとえばチームワーク科学分野で研究を進められている先生方が共同研究を展開してくれるかどうかだ、とのコメントがありました。

ソーヤー先生からは、interdisciplinaryであり続けるためには「境界」を柔らかくして、境界の中と外の人が共に触れることができるオブジェクトを用意する必要がある。チームワーク科学の場合は「チームワーク」そのものがオブジェクトで、それに異なる分野の人たちがアプローチしている。このオブジェクトと境界をどういう風に作り上げていくかが課題だろう、とのコメントがありました。


パネラーの先生方

パネラーの先生方のコメントを受けて、堀井先生からは、チームワーク科学の立ち上げ当初から、分野横断的をどう考えたらいいのかを模索してきたが、今日の議論から、過去の分野横断的な研究活動を分析し学習する必要があり、そこから目指すべき、分野横断的であるからこそ生まれる価値を実証することが必要だ、と感じた。そして、現在チームワーク科学分野で研究を進められている先生方がどのようなチームをつくるとプラスになるか、検討することに意味があると思う、とまとめられ、パネルディスカッションが終了しました。

最後に堀井先生からシンポジウム閉会の挨拶があり、立ち上がったばかりのチームワーク科学分野だが、この分野が本当に発展していけば、本日のシンポジウムは記念すべき1回目となる。今日の内容からそうなると感じた、と述べられ、閉会となりました。


登壇された先生方

(参考) シンポジウム開催告知