チームワーク科学分野
チームワークに関する革新的な研究アプローチの確立と分野横断的研究領域の創出
堀井 秀之 先生

領域代表者 
i.school エグゼクティブ・ディレクター
(一社)日本社会イノベーションセンター(JSIC)代表理事
東京大学 名誉教授

特に近年は、各メンバーが積極的にアイデアを出し、創育工夫しながらチームを運営していくことにモチベーションを感じる若者が多く、トップダウン型のチームワークは敬遠される傾向にある

組織運営の理想系は時代とともに変化する

理想とされるチームワークのあり方は、時代や社会、経済、ビジネス環境の趨勢とともに大きく変化しています。以前はトップダウン型のチームワークが一般的で、たとえば社長が決定した中期計画に社員が従う「上意下達型」のチーム運営がなされていました。

これに対し、現在ではボトムアップ型のチームワークが浸透しつつあります。チームの各メンバーが自律的に思考・判断し、アイデアを出し合って、そこから最適解を拾い出して組織を運営する方式です。チームのリーダーには自分の意見を押し付けるのではなく、各メンバーから意見を引き出す役割が求められます。

どちらのタイプが絶対的に正しいのか、それを断言することはできません。しかし、社会が複雑化し、かつ個人に自律性や自発性が求められるようになった結果、従来のトップダウン型のチームワークが通用しにくくなっているのは事実です。

『チーム・オブ・チームズ』で提示されたもの

これからの社会に必要とされるチームワークについて考察する上で、元米軍司令官であり経営コンサルタントの、スタンリー・アレン・マクリスタル(Stanley Allen McChrystal)の著書『チーム・オブ・チームズ(TEAM OF TEAMS)』が参考になります。対テロ作戦で統合特殊作戦コマンド司令官を務めたマクリスタルは、事態が刻一刻と変化する状況においては、組織の末端に位置する各チームが、自律的に意思決定をして最適な行動をとる必要があると述べました。トップが常に正しい判断ができるとは限らず、その指示を待つのみでは対応が遅れて、取り返しのつかない事態に陥る危険があるからです。  

ただし、全体の連携がとれていなければ、個々のチームは孤立し、組織は統一性のない集団に陥ってしまいます。そこで、情報共有を徹底して透明性を確保することで、個々のチームが機能し、かつ組織全体が最適な行動をとることができるようにすべき、というのが著者の主張です。

大企業病に悩む日本企業が、停滞から抜け出すためのヒントは、ここにあるのではないかと考えています。

個人や個性を重視するチームワークの必要性

これに加えて、IBMの事例も、これからのチームワークを考察する上で大いに参考になります。IBMは90年代に巨額の赤字を抱え、分社化の危機に瀕していました。しかし、その後組織改編に成功し、業績を大きく回復、成長に転じます。  

地方自治体も様々な課題に直面しているが、市民ひとりひとりがチームワークを発揮して画期的なアイデアを出し合い、地域活性化につなげることができればと考えている

その背景として様々な要因が考えられますが、2003年に開始されたイントラネット上の公開ディスカッションであるJamを、その一つとして挙げることができます。従来の経営者会議とは異なり、このディスカッションには約2万人に及ぶ専門性の高い社員が全世界から参加し、オンラインで社の方針などについて自由に議論しました。そして、その結論をもとに組織全体の経営理念が策定されたのです。主体的に策定プロセスに関わった結果、一人一人の社員が企業理念や課題を自分事としてとらえることが可能になりました。これからの社会に必要なのは、こうした個人や個性を尊重するチームワークではないかと考えています。

また、これまでの調査結果から、ボトムアップ型のチームワークには、個々の参加者のモチベーションを高めたり、積極的なマインドセットを生み出すなどのポジティブな効果が備わっていることが示唆されました。この仮定に基づいて、チームワークが個人の心理状態に与える影響についても、本領域の研究で明らかにしていきたいと考えています。