社会課題解決のためのアントレプレナーシップとそれを支えるチームワークに関する研究
前田 貴洋 先生

琉球大学 人文社会学部 国際法政学科 政策科学講座 准教授

それでは、具体的な研究手法について教えてください。

行政組織の中で傑出した成果を出している職員に、インタビュー調査を実施しました。

コロナ禍であり、また全国各地の自治体に伺うことが困難であったため、インタビューはすべてオンラインで実施し、音声データと映像データを取得しました。本研究グループには私を含めて自治体行政が専門の研究者が所属しているため、意思疎通に苦労するようなことはなく、良いインタビューができたと自負しています。

インタビューは1人当たり2時間30分程度。略歴などの基本事項や、
新規事業の内容、チームワークなどの質問票を先方に事前に提出し、それに沿ってお話を伺った

インタビューだと、実態を詳しく把握することができますね。

はい。行政組織は実務的な側面の強い組織なので、抽象的な分析ではその実態を詳しく解明できません。そのため、行政学を専門とする研究者が、現場の職員に詳細かつ具体的に質問し、その結果を分析して重要な要素を摘出することが最も効果的なのです。

なお、これまでにも傑出した業績を上げた、いわゆる「スーパー公務員」へのインタビューは行われていました。しかし、特定の個人に注目したものが大多数で、その背景に着目した研究はありませんでした。もちろんそうした調査にも意義はありますが、これが行き過ぎてしまうと、逸材が存在しない組織にはイノベーションが起こせないという話に陥ってしまいます。

そこで、本研究ではインタビュー調査の結果から、行政組織がイノベーションを起こすうえで重要と考えられる共通要因を抽出し、一般化が可能な法則に昇華することを目指しました。最終的には行政現場にフィードバックして、チームワークを円滑に発揮できる環境の醸成に貢献したいと考えています。

それでは、インタビュー調査から明らかになった、イノベーション促進要因について教えてください。

重要なイノベーション促進要因として、まず上司との関係性が挙げられます。新規事業に全組織的に取り組む際には当該自治体の長や議会の承認が必要となるため、アントレプレナーがそこまで話を進められるよう、上司は部下の行動を可能な限り尊重し、積極的にサポ-トをしなくてはなりません。

行政組織内のアントレプレナーは、通常業務と並行して新規事業に取り組む場合が多い。
そうした姿勢を、上司をはじめ周囲が理解してサポートするどうかが、イノベーションの成功の鍵となる

また、アントレプレナーが所属部署や当該自治体の枠にとらわれず、関連部署や地域住民など、組織内外のステークホルダーと良好な関係を築き、チームメンバーとして迎え入れることができるかどうかも重要なポイントです。

こうした促進要因は、大掛かりなイノベーションのみならず、通常業務の改善や効率化にも大いに役立つと見込んでいます。