滋賀大学 教育学部 教授
その通りです。そこで、共同研究者である公認心理師・臨床心理士の芦谷道子先生(滋賀大学教育学部 教授)とともに、睡眠時の最低心拍数を下げるフィードバックの内容も検討しました。具体的には、心の状態の悪化のサインが認められた被験者を対象に、呼吸法やマインドフルネスなどの方法を伝えるアニメーションを作成して配信しました。
現在は、数理モデル/アルゴリズムを用いて推定したストレスに対して、上記のようなアフターケアやフィードバックがどのような効果を発揮したのか、60名の被験者で検証しているところです。
心の状態の推定のために、どの計測データや分析結果を組み合わせればよいか、その探索に非常に苦労しました。当初はどのような要素が心の状態の推定に関わっているのか見当がつかなかったため、調査や計測の項目が十分に精査できなかったのです。この特定領域研究助成に採択されたおかげで、探索に必要な量のデータをスムーズに集めることができるようになりました。研究を進める中で重要な要素を絞り込むことができたため、有用な指標を構築できたのです。
また、QOLやWell-beingに関連する心理学分野の質問紙の中には、ライセンスが存在するものもあり、社会実装目的の場合は使用できないものや、使用料が必要なものもありました。ただし、現在は研究者の間で様々なデータの共有が急速に進んでいます。質問紙もその流れに乗って、ライセンスの問題も解決に向かうのではと見込んでいます。
先行研究においては、メンタルヘルス悪化の要因として、コルチゾールだけが注目される傾向にありました。
しかし、本研究を進める中で、抗ストレス物質であるDHEAの量が重要であることがわかりました。すなわち、コルチゾールの値が高い場合でも、それに応じてDHEAが増加していれば、ストレスにうまく対処できている可能性が高いのです。
また、ストレス関連物質量の推定にあたっては、ワークエンゲイジメントの中でも「熱意」や「没頭」などのポジティブな指標が関わっていたのが、少し意外でした。この結果から、メンタルヘルス悪化のパターンを探ることができるのではないか、と見込んでいます。
その他、「問題焦点型」(ストレッサーそれ自体の解決を試みること)のコーピングが、DHEAの値を下げてしまうことも明らかになりました。
民間の助成金については、いろいろと調べていました。しかし、自分の研究は社会実装の色合いが強く、しかもまだ研究フェーズなので、他の研究助成の趣旨には適合しにくいのではないかと悩んでいました。
そんな時に、このセコム科学技術振興財団の助成事業に出会ったのです。幸い、その年の公募領域が自分の研究テーマに合致していたので、申請を決意しました。審査員の先生方には工学系の研究者が多く、その視点から様々な助言をいただくことができ、とても有難かったです。また、採択後も交流会を通して工学や臨床医学など他分野の研究者の意見を伺ったり、同じフェーズの研究者と研究上の課題などを共有することができ、たいへん参考になりました。
本研究で十分な量のデータを集めることができたため、実用化に向けた詳細かつ具体的な研究計画や目標が構築できました。次のフェーズでは、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成に挑戦し、社会実装を目指して取り組んでいきたいと考えています。