疼痛緩和治療において疼痛の程度を客観的に評価するウェアラブルセンサ方式の社会実装
室伏 景子 先生

がん・感染症センター都立駒込病院 放射線診療科治療部 医長

睡眠は心身の健康に大きく関わる要素です。睡眠時の交感神経機能を把握できるようになれば、患者の治療に大いに役立ちますね。

はい。当院の他科の医師に先の結果を見ていただいたところ「疼痛に悩む患者の睡眠の評価に応用して、ストレスの緩和などに役立てることができるのではないか」 と、関心を示してくださいました。今後、この結果をベースに様々な研究ができるのではないかと期待しています。

こうした意見を参照した上で、3年目には薬の服用や疼痛、食事内容などの生活習慣について記録できるアプリの開発に取り組みました。

アプリに入力された情報と、ウェアラブルセンサで測定した心拍変動などの生体情報を連動させ、それを医療関係者が解析することで、患者の交感神経活動や睡眠などを評価して、治療に役立てることができないかと考えています。

社会実装に向けての取り組みも進められているのですね。

領域代表者である西田佳史先生からも「社会実装を意識してほしい。学術的な貢献も重要だが、いかに研究成果を社会に還元するかというポイントを探ってほしい」という助言をいただくことができました。

社会実装を重視する点がセコム科学技術振興財団の助成制度の特長であり、他の研究助成とは大きく異なると考えています。

先生は臨床医として医療現場に携わりながら、研究を進められているのですね。

医師として日々、患者の治療に尽力する中で湧き上がってくるリサーチクエスチョンが、研究の原動力になっています。医長としての業務や、学会関連の仕事などもあり、研究時間の確保が困難な時もありますが、研究は新しい治療の可能性を感じることができるため、とても楽しく取り組んでいます。また、現在は臨床試験支援スタッフのサポートにより、研究面の業務がスムーズに進んでおります。

臨床検査技師の西原真理子さんと。
「臨床研究の視点から、被験者のデータを精緻に確認してくださるので、研究の質の向上につながる」とのこと

将来的には、本研究を土台にして、高齢患者の治療に関する研究を行うつもりです。ご高齢の患者さんに放射線治療を行う場合、ご本人の体力や副作用の影響などを十分に考慮する必要がありますが、客観的な指標がないため、医師が経験に基づいて判断しているのが現状です。そこで、本研究の成果と、現在集積している高齢患者のデータとを結び付けて、高齢患者の治療の選択基準を構築できればと考えています。

最後に、特別領域研究助成への感想を教えてください。

Fitbitのようなウェアラブル端末が普及したことなどにより、心拍変動に着目した研究や、疼痛の指標化に関する研究が、ここ最近急増しています。私がこの助成制度に出会ったのは、本病院に異動してきたばかりの3年前のことでした。その時に申請して良かったと実感しています。

助成金は臨床試験管理スタッフの人件費や、患者登録システム(EDC: electric data capture)の管理料などに用いています。本研究のような多施設臨床研究の場合、個人情報を保護しながら患者のデータを入力・管理するために、EDCが必須となります。登録料や管理料が高額ですが、助成額が大きいおかげで、その費用を十分に賄うことができました。紙ベースの管理法よりもはるかに効率がよくデータを管理できるので、ひじょうにありがたいです。

私のような臨床医が潤沢な資金を受けて、関心のある研究に取り組めるチャンスはあまりないため、貴重な経験となっています。感謝を込めて良い結果を出せるよう、今後も努力していきます。 

個人の研究でEDCを構築できるのは、ひじょうに稀有。
潤沢な資金を受けて、厳格なルールにしばられることなく研究できることに感謝している

疼痛の客観的評価法に関するご研究が、治療効果の向上や患者のQOLの維持向上に貢献することを、心から願っております。お忙しい中、長時間のインタビューにご対応いただき、ありがとうございました。