安心安全かつ自律した労働と生活を保証する「社会・労働参画寿命」の見える化と訓練法
島 圭介 先生

横浜国立大学 大学院 工学研究院 知的構造の創生部門 准教授

デスクワークや肉体労働といった職種の違いは、立位年齢に影響しますか。

はい。同じ年代でも職業によって日常の体の使い方が異なりますし、健康な人間と疾患を抱えている患者でも差異が出ます。このため、職種別、疾患別の立位年齢モデルの構築が必要です。

職業別の立位年齢モデルが完成すれば、経営者は企業内検診で従業員の立位年齢を測定し「この立位年齢なら、安全に業務を遂行できる」「立位年齢が低下しているため、部署替えを検討する」といった評価が可能になると考えています。また、労働者も「自分の立位年齢なら、あと○年はこの仕事を安全に続けられる」「もう○年はこの仕事を続けたいから、立位機能を高めるトレーニングをしよう」など、自身の社会・労働参画寿命を把握できるようになります。

適切な機能訓練を受ければ、社会・労働参画寿命を延ばすことができるのですね。

現在、立位機能に関わる3感覚(視覚・体性感覚・前庭感覚)の重みをリアルタイムで視覚化するとともに、任意に錯乱を与えることで切り替え能力が弱い感覚系を特定し、感覚系と関係する上肢や下肢の筋力とともに統合的にトレーニングする「Physical-Sensoryトレーニング法」の構築と、それを実現する小型トレーニング装置の研究開発を行っています。

これは労働者の立位機能の回復や維持を支援するだけではなく、高齢者のデイサービスや病院のリハビリ活動に導入することで、転倒予防の実現に大きく寄与します。さらに「トレーニングによって立位年齢が若返った」等、回復の効果が数字で表現されるため、高齢者や患者、指導職員のモチベーション向上効果も期待できます。

転倒災害という課題に対して、健康診断に「立位年齢」を加えることで「社会・労働参画寿命」という新たな考え方を普及させ、転倒災害が少ない社会システムを作る──この研究は「人間情報・社会情報に基づく安全安心技術の社会実装領域」の目的に、見事に合致していますね。

募集要項を読んだ時、まさにこの研究にぴったりだと感じ、申請しました。採択していただいたおかげで研究がかなりスムーズに進み、今はデータを集めてエビデンスを確立する段階に入っています。研究中、共同研究者の先生方とのディスカッションから新しい研究テーマを見つけたり、新しい現象を目にしたりすることが何度もあり、人間がもつ機能の面白さを改めて実感しています。

領域代表の西田佳史先生も、この研究室に来られたことがあるそうですね。

西田先生には、わざわざ私の研究室にまで足を運んでサイトビジットしてくださったり、先生が懇意にされているメディア関係者の方をご紹介してくださるなど、とても手厚いご支援をいただいています。また、面接の際は他の先生方からも鋭いご意見や、新しいアイデアをいただき、とても有難く思っています。

StA2BLEの普及のために設立したベンチャー企業も、2019年度から活動を開始予定です。超高齢社会を支える革新的な基盤技術と社会システムを確立できるよう、これからも全力で研究に励んでいきます。

立位年齢の理論構築に携わる大学院生の坂田茉実さん.立位機能研究には毎年3~7名の大学院生が参画。検査装置の構築や、展示会や企業健診での検査をサポートしている

健康診断の項目に「立位年齢」が加わる日を、楽しみにしています。お忙しい中インタビューにお応えいただき、ありがとうございました。