水害リスクの地域学習ニーズに応える河川水位観測・洪水シミュレーション技術の統合
〜水害に関する「地域の学び」を支援する技術〜
松田 曜子 先生

長岡技術科学大学 環境社会基盤工学専攻 准教授

地域の地理環境や抱えている課題に応じて、情報の優先度や、避難時にとるべき行動の内容が変わるのですね。

はい。これらの地域のニーズを汲み取り、その地域にとって適切な情報を整理し、順位付けを行わなければ、社会実装をしたことにならないのです。これまでの防災学習は、専門家から住民に対して一方的な知識を与えて終わり、という構図がほとんどでした。これは組織学習の理論でシングルループ学習と呼ばれます。

専門家は統計や研究の結果に基づいて、専門家の理屈で住民に伝えます。

住民は「専門家から与えられた知識や情報を、自分達で活かすための知識に変換」できていないため、災害から命を守る行動には結びつきません。こうした従来の「シングルループ学習」では、おのずと限界が生じます。互いが知識を高め合う「ダブルループ学習」を取り入れていく必要があるのです。

ダブルループ学習とは、どのような方法なのでしょうか。

専門家と住民が同じ目標を持ち、両者が同じ学びの場に参加する学習方法です。専門家もステークホルダーとして入り、住民と対話することで、例えば「よりよい情報提供の仕方」について学びを得ます。「お互いに情報交換し、学び合うことで、みんながレベルアップをしていく」という概念モデルで、今後もこの方式を“地域学習の場”に取り入れていく予定です。

計測やヒアリング調査の結果は地域の文化祭などに参加し、すべて住民に伝えている

すでにダブルループ学習を行っていたのですね。双方にどのような変化が起こりましたか。

大きな変化があったのは、ドライブレコーダーの映像を活用したときです。一昨年の大雨の際、東川口で浸水被害があり、その時に自家用車がたまたま自動録画していた映像を、住民の方が提供してくださいました。

この映像を地域の文化祭で視聴してもらうと、住民全員が釘付けになりました。馴染みのある建物や道路が映っていたことから、自然と「我が事」として受け止めることができたのでしょう。専門家が、難解な専門用語を駆使して長時間説明をするよりも、はるかに効果がありました。

ドライブレコーダーの記録を専門家と住民で共有し、双方の学習のために活用するとは、すばらしい発想だと思います。

防災情報を提供する行政側、実際に避難をすべき住民側は、ともに固定観念(=フレーム)に縛られすぎているように思います。私は「そのフレームを壊すべき」と主張するつもりはありませんが、「もう少し緩めていきませんか」と提案をしていきたいと考えています。

キャンパス内の一角にある「セコムホール」。当財団からの寄付のため、このように命名された。平成7年に竣工。学生の部活動やイベント等に大いに活用されている

防災学習に関する研究内容について分かりやすく解説していただき、ありがとうございました。先生のご研究が、ここからますます発展していくことを期待しています。