水害リスクの地域学習ニーズに応える河川水位観測・洪水シミュレーション技術の統合
〜水害に関する「地域の学び」を支援する技術〜
松田 曜子 先生

長岡技術科学大学 環境社会基盤工学専攻 准教授

もう少し簡単な表現でご説明いただけると助かります。

防犯カメラから取得した川の映像を、黄色で示した水面の面積の増減や、周囲の風景の変化の具合で、どこまで浸水しているのかをコンピュータが過去の沢山の事例に基づいて自動的に判断します。この部分については、共同研究者で画像処理の専門である岩橋政宏先生が担当しています。

※イメージ図。防犯カメラの映像の水面を黄色で示すことで、住民にも視覚的に分かりやすい情報にして公開

岩橋先生は、同じ大学の同僚の先生だそうですね。

はい。岩橋先生は長岡技術科学大学の電気電子情報工学専攻の教授であり、画像処理の専門家です。学内の先生から紹介されて、隣の研究棟に訪ねていきました。この大学に限らず、大学という研究機関の中には、まだ世の中に知られていなくとも、役に立つはずの、すばらしい技術がたくさん眠っているのだと思います。

「社会実装」という点において、それが実現できていない研究や技術が、私達の想像以上に多くあるはずだ、と。

なぜ実現できないのか。第一に研究者の本分は「論文を書くまで」と、されていること。これはアカデミックの世界の、よくない慣習かもしれません。第二に、社会実装を実現するためには、その技術を使う人(企業や市民)との、細かなやり取りや指導といったコミュニケーション力が必要となるからです。

研究者はコミュニケーションが苦手な方が多いように思います。だからこそ、研究のみに打ち込めるわけですが……。松田先生のご研究は、まさに特定領域研究助成「人間情報・社会情報に基づく安全安心技術の社会実装」領域のテーマに合致していますね。

そうですね、これは本当に幸運なことだったと思っています。セコム科学技術振興財団の助成金については、研究の準備が整い、ちょうど機が熟してきた頃に研究者仲間から教えてもらいました。知ったときは絶妙のタイミングだと興奮しました。

領域代表者の西田佳史先生には、たいへん感謝しています。西田先生が本領域の趣旨についてプレゼンテーションされた際の「社会実装学に積極的に取り組んでいきたい」というお言葉に、深く共感しました。サイトビジットとしてわざわざ長岡市までお越しいただいたことにも、感銘を受けました。先生とは専門領域が少し違うため、この助成制度がなければお会いする機会はなかったでしょう。その意味でも、今回の助成制度に採択していただいたことは、私にとって大きな幸運でした。

2018年夏にサイトビジットで訪れた領域代表者の西田佳史先生(写真右)。覗き込んでいるのは試験設置した水位計

今年で研究助成2年目を迎えられましたが、初年度では、どのような研究成果がありましたか。

長岡市内の摂田屋5丁目、東川口、小千谷市の千谷川。この3つの地域を対象に、研究を進めました。この対象地域は、2017年7月に軽微な浸水被害に遭い、周辺地域で避難勧告が発令された地域などが含まれています。その際に、地域住民が実際にとった行動と、その後の課題について挙げてもらうヒアリング調査を実施しました。

調査の結果は、どうでしたか。

地域によって、避難行動につながる主な“情報”や“背景”が異なる、ということが分かりました。知ってしまえば当たり前のことかもしれませんが、これには本当に驚きました。たとえば、川の挙動が避難行動と直結する摂田屋や千谷川に対し、背後に山が迫っていて土砂災害リスクも高い東川口では、水位情報よりも、上流部の気象に関する情報が優先されます。また、高齢者福祉施設がある摂田屋は避難要支援者の避難が最優先となり、山と川に囲まれた東川口では情報伝達の速さが重視されています。

研究対象地域それぞれの人口や地理環境などの特徴を把握することにより、防災に必要な情報の整理や順位付けが可能となる