地域共助社会を促進する人・システム協調型スケジューリングによる生活機能の再設計と社会実装
小島 一浩 先生

産業技術総合研究所 人間拡張研究センター
共創場デザイン研究チーム チーム長

助成期間:平成29年度〜 キーワード:システム工学 社会システム デザイン 研究室ホームページ

2001年3月、東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻 博士課程修了(工学)。その後、独立行政法人産業技術総合研究所に入所し、知能システム研究部門分散システムデザイングループに研究員として所属。2009年に同部門統合知能研究グループの主任研究員を経て、2015年にはスマートコミュニケーション研究グループのグループ長に就任、現在に至る。また、2006年〜2008年に内閣官房情報セキュリティセンター(NISC)センター員として出向、2014年〜2015年に内閣官房・内閣室 地域づくり支援事業に社会システム設計の専門家として従事。2014年には気仙沼市住みよさ創造機構の準備委員会から関わり、一般社団法人化後した現在も運営委員を務める。


まずは、先生がこの研究テーマを選んだ経緯について、お教えください。

大学院時代は脳型計算機の研究を行い、卒業して産業技術総合研究所(以下、産総研)の所属となってからは、主にインターネット上におけるユーザー間の情報フローの分析といった、分散情報検索の研究に携わっていました。

そんな私の研究生活は、東日本大震災によって一変しました。産総研の技術を活用して、被災者の生活不活発病(外出頻度が落ちて体が衰えてしまう状態)対策に有効なシステムを構築する支援プロジェクトが立ち上がったのです。その年の11月、私は気仙沼市の五右衛門ヶ原仮設住宅のトレーラーハウスを拠点に、現地の人々と交流して課題を抽出し、解決のためのシステムを組むというミッションの担当になりました。

それまでの研究とは、全く異なる領域での活動ですね。

右も左もわからない状態でしたが、まずは地域住民との信頼関係を築くため、NPO法人やボランティア団体が行っていた支援活動のお手伝いをしたり、積極的に地域の方々と交流をしました。また「必要なデータ収集を終えたらすぐに現地を去る研究者」というイメージを払拭するため、東京には戻らず、トレーラーハウスに1年間住み込みました。そうしてはじめて、生活上の困りごとや地域のニーズについて、話していただけるようになったのです。

地域住民との信頼関係なしに、研究を始めることはできないのですね。その後、どのようなシステムを構築したのですか。

五右衛門ヶ原仮設住宅は山の上にあったため、食料や日用品などの調達が困難な状態にありました。そこで地域の複数の商店主に依頼をして、トレーラーハウスを拠点に生活必需品の出張販売を行ってもらったのです。商店主の負担を軽減するため販売時間は日中の数時間のみとし、さらに住民が幅広い商品を購入できるよう、曜日ごとに異なる店に出店してもらいました。

加えて、市役所やNPO法人など、地域のあらゆる機関に協力していただき、買い物以外にも「住民が集まって交流する機会」を作ってもらいました。たとえば、食材を販売する日に、トレーラーハウスの隣でお惣菜やお弁当を活用した食事会を催す、といった具合です。

この研究活動を通して、私は技術を社会に組み込む仕組みづくりの重要性や、やりがい、面白さを知ることができたのです。

技術を社会に実装するためには「地域の課題をどのように解決するか」を、地域の人々と一緒に考えていく必要があるということを気仙沼市で痛感した

買い物の困難さは、被災地だけではなく、高齢化と人口減少が進む地方都市などでも大きな課題になっています。

買い物困難対策は、人々の生活機能の再構築だけではなく、地域経済の活性化を目指す上でも重要な案件です。すでに買い物困難地域では、軽トラックなどによる住宅地近辺での出張販売や、複数のユーザーが個別に商品を注文し、業者がそれらの商品を拠点に持ち込んで一括配布するなど、さまざまな仕組みが展開されています。しかし運転手や専属販売員、販売時間の確保にコストがかかるため、地域の地産地消の実践となる小規模商店が実施することは困難です。

そこで私は、商店・人・施設といった地域資源を活用することで買い物機能を再設計できるよう、下図のような地域経済寄与型ビジネスモデルを構築しました。

当初の研究全体のイメージ図。情報支援ツールやロボットアシストウォーカーを活用することで、地域の障がい者や高齢者も担い手となる

ユーザーが商品を受け取るまで、多くの地域住民が関わる仕組みになっています。

まず、地域の小規模商店がWeb上に仮想店舗を作り、ユーザーはその仮想店舗に対し、電話やWeb上で商品の注文を行います。注文を受けた店舗は最寄りの出荷所(施設1)に商品を持ち寄り、施設職員は業務の移動ついでに、商品を受け渡し拠点(施設2)へと配送。受け渡し拠点では、商品の仕分け、ユーザーへの受け渡し、代金受け取りなどを、地域の障がい者や高齢者が担います。また、積極的な参加を促すための行動変容エンジンと、一連のスケジュールを管理するスケジューリングエンジンを連動させることで、地域全体で課題解決を目指す共助の意識を育み、社会参加によって安心を得るという地域社会性の向上が期待できます。

ITとRT(ロボットテクノロジー)によって地域資源をうまく組み合わせることで、受付や配送のコストを軽減し、地域の小規模商店と地域住民による「買い物困難」の課題解決が可能になる